第15話

 花火大会の翌日、二度寝から目覚めると、香織から謝罪と体調は良くなったという連絡と、遼から謝罪の連絡が来ていたが、どちらにも返信する気が起きずひたすらベッドでゴロゴロ転がっていた。

 誰も悪くない。香織はただ体調を崩していただけだし、遼はそれを送って行っただけ。それでも行き場のない感情が私の中で渦巻いていた。


 ピンポーン。


 チャイムが鳴っている。さっきスマホを見た時は10時だったから、父も母も仕事だろう。姉は…バイトだろうか。昨日帰宅後も涙が止まらず瞼が重い。きっと今とてつもなく不細工な顔をしているし、居留守を使おうと決めた。

 が。

 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン…。

 何度も何度も鳴らされ、イライラしてくる。

 部屋を出てモニターを見ると、そこには渚が立っていた。玄関まで行きドアを開ける。


「何?」

「なんだいるんじゃん。母親がスイカ持って行けってさ。あとアイスとかシュークリーム」


 渚の手には大きなスイカと、コンビニの袋。そこにいっぱいのアイスやシュークリームが入っている。


「どうしたのこれ」

「家にあった」


 そう言いながら靴を脱ぎ始める渚。


「お邪魔しまーす」

「な、なんであがるの?」

「だってスイカ重いよ?」


 そう言ってキッチンまで迷いなく進む。泣き腫らした顔を見られたくなかったが、昨日散々泣き顔を見られているので今更隠したって仕方がない。


「ね〜、これ食べていいの?渚も食べる〜?」

「いいよ〜。俺も食べる〜」


 キッチンにスイカを置いてくれてる渚に尋ねながら中身を漁っていると1枚のレシートが入っていた。

 ジッとそれを見ると、すぐそこのコンビニの物だった。袋の中に入ってる物が書かれている。時刻は今日の9時40分、少し前だ。


「あっ!!!それは…!!!」


 スイカを片付けた渚が、こちらに来てレシートを奪い取る。


「渚もしかして…わざわざ買ってきてくれたの?」


 そう尋ねると、渚は何も言わず、レシートをぐしゃぐしゃと握りつぶして、ゴミ箱に捨てた。おばさんにスイカを持っていくのを頼まれたのは本当だろう。それを持っていくついでに、昨日泣いていた私を元気づけようとして、わざわざコンビニまで行き、色々買ってきてくれたのだ。不器用な優しさが身にしみる。


「隣に持っていくだけなのに、私のためにわざわざコンビニまで行ってくれたの?ありがとう渚」

「あ~、レシートもらうんじゃなかった…」


 渚が恥ずかしそうにしている。普段あまり表情を変えることがない渚が照れているのは、とても貴重だ。


 2人並んでソファに座って渚が買ってきてくれたアイスを食べる。無言でアイスを食べ、食べ終わると同時に渚が口を開く。


「アズ、昨日はごめんな、せっかく遼と花火行ったのに」

「え、いやいや、誰も悪くないじゃん。渚が謝ることないよ」


 渚に謝罪される理由はない。昨日のことは本当に誰も悪くないのだ。


「カオ、体調良くなったって連絡来た」

「私にも来たよ」


 返信は、まだしていないが。


「だからさー、昨日のお詫びも兼ねて、みんなで花火しない?」


 渚の誘いに、「したい!」と言った。渚はニコッと笑って、


「じゃあまた夜迎えに来るわ」


と言った。

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