第14話
「私ね、遼のことー…遼?」
遼の方を見ると、遼は少し遠くをジッと見ている。遼の視線の先を向くと、肩を組んだ男女がこちらに向かって歩いてきている。女性の方が体調が悪いのか、ぐったりしている様子だ。支えるようにして歩いている男性に見覚えがある気がした。
「香織!!」
「え!?」
遼がベンチから立ち上がり走ってそちらへ行く。私も同じように駆け出した。
「遼!アズ!!」
香織を支えているのは、渚だった。渚が支えている反対側を遼が支え、私達が座っていたベンチまで運ぶ。私は渚が持っていた、香織のであろう巾着を代わりに持つことしかできなかった。
「アズ隣座ってやって」
渚に促されて隣に座ると、香織が肩を預けてきた。とても辛そうだ。それに熱い。
「何やってるんだよ、こんな辛そうなの連れ回して!!」
遼は渚に怒っているようだ。
「違うの、遼ちゃん。私が無理言ったんだよ。ナギちゃん何も悪くない…」
香織が言った。渚と花火大会に行くことをとても楽しみにしていたから、無理してでも行きたかった気持ちはわかる。
「お前なぁ〜」
呆れたように言う遼。そして香織の前にしゃがんで「乗れ」と言った。
「いいよ、遼。俺がカオ送って行くから、アズと花火見に来たんだろう?」
渚が遼に言う。香織も
「そうだよ、遼ちゃん。梓と花火見て…」
と言っている。が、遼はそんなこと聞かなかった。
「俺の家の方が、香織の家近いし、おばさん達も見知らぬ男に連れて帰ってこられるより俺が連れて行った方が安心するだろう?」
そう言われると、そうかもしれない。渚は香織の両親と面識はない。娘が見知らぬ男に連れて帰ってこられて、熱まであったらおばさんは何も言わなくても、過保護なおじさんは渚に対して激怒するかもしれない。
「いいよ、香織。遼もこう言ってるし送ってもらいな」
「でも…」
香織はとても申し訳なさそうにしている。私の気持ちを知っているから気を遣ってくれているのだろう。そんな香織の手を引き、遼の肩に置いた。遼が立ち上がる。
「梓、悪い。また埋め合わせするから」
「わかった。香織、お大事にね」
「渚も、怒って悪かったな。夜道危ないから梓と一緒に帰ってやって」
そう言って、2人は帰っていった。遠くなっていく後ろ姿を見て零れそうになる涙をグッと堪える。
仕方ない。体調が悪い香織を送って行っただけだ。遼は優しいし、そういう所が好きだ。
ーでも…。
「アズ」
突然名前を呼ばれて慌てる。
「な、何?」
「ごめんな、せっかく遼と2人で来ていたのに」
渚にそう言われて、我慢していた涙がポロポロと零れ落ちる。渚はそれ以上何も言わず、ただ頭を撫でてくれていた。
いつの間にか花火の音が響いていた。私は一度も花火を見ることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます