第13話
「梓、悪い、待ったか?」
スマホを見ていると、目の前に人が立った気配を感じ顔を上げると遼が立っていた。18時25分、到着してから10分しか経っていなかった。
「そんなに待ってないよ」
「なんか久しぶり?だな」
遼がそう言いながら、ジッと見てくる。
「いいじゃん、浴衣。可愛い」
「え!?」
思ってもみない言葉に動揺する。顔が熱くなった。
「あ、ありがとう…」
「うん、じゃあ行こうぜ」
そう言って遼は屋台が並んでいる方へと歩き始める。私も隣まで小走りで駆け寄った。浴衣でいつもより、歩くペースが遅い私に遼が合わせてくれているのがわかる。
「すげー人だな」
花火までまだ時間があるからか、たくさんの人が屋台近くに集まっている。
「梓、ほら」
遼が手を差し出してくる。
「え?」
「この人混みじゃはぐれるかもしれないから、手。嫌なら前の時みたいに俺の服掴んどいて」
昔から祭りの時は、人が多くはぐれるかもしれないからと遼と手を繋いで歩くことが多かった。いつもそうやって手を繋いで歩くことが当たり前だったのだが、中学生になると手を繋いでいることをクラスメイトにからかわれるようになり、手を繋ぐことをやめた。それでも人の波に流されてしまいそうになることが多かったため遼の服を掴ませてもらいまわるようになった。
今年は…躊躇いながらもソッと遼の手に重ねる。遼と手を繋ぐなんて何年ぶりだろうか。
「また、からかわれるかもしれないよ?」
「別にいいよ、梓とはぐれる方が困る」
そう言って手を繋いで、人混みの中に入っていった。昔から何度だって繋いできた手。それでも昔とは違う、大きくて私の手なんてすっぽり収まってしまいそう。柔らかかった手も今では骨ばって固い。その違いに緊張して、手に汗をかいてしまいそうだ。
「梓、何食う?」
「えっと、かき氷とたこ焼きとリンゴ飴と…あ、わたあめも捨てがたい…」
そう言うと遼が笑う。
「そんなに食って腹壊すなよ〜?」
「壊さないし!!」
よかった。いつも通りだ。むしろいつもよりたくさん笑って話してくれるし、私も普通に話せている。夏休み前にあんなに話せなかったことが嘘みたいだった。
たくさん買い、神社の境内で少し休憩しながら食べることにした。ちょうどベンチが空いていたのでそこに座る。夜風が気持ちいい。
「これだけ人いてもほとんど知り合いに会わなかったな」
遼がジュースを飲みながらそう言った。
「人多すぎて気づかなかっただけかもね」
「そうだなー」
渚と香織も一緒に来ているはずだが、会うことがなかった。この状況で2人に会うとまた気まずくなってしまいそうだから、ホッとしていた。
そんなことを考えながらかき氷を食べていると遼が私を呼び
「一口」
とスプーンに乗ったかき氷を食べた。ドキッとする。心臓の音がやけに早い。遼が好きだと自覚して以降こんなにドキドキしたことがあっただろうか。
「遼…あのさ…」
ー今なら、言えるかもしれない…。
そう思ったら自然と口が開いていた。
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