第11話
「梓、遼。おはよう、朝1人で先に行って悪かったな」
教室に着くとクラスメイトと話していた遼がこちらに気づき、話しかけてきた。昨日のことなんて何もなかったかのように。
「いいけど、何かあった?」
「いや、何も。早く目が覚めたから早く来ただけ」
私は遼の顔を見ることができず、そのまま席へと向かった。予鈴まで渚と話していた遼が席に戻ってきて
「梓、ノートありがとうな。頑張って勉強するわ」
と言って座った。
それから期末試験が終わり、夏休みまでの残りの授業の間、遼と挨拶以外の会話をすることはなかった。遼は渚や香織とは話していたし、私も同じようにしていた。
何度も話しかけようとしたが、何を話していいかわからないままだった。小さい頃からずっと側にいたから、こんなに長い間遼と話さなかったことなんてない。
そのまま、夏休みに入ってしまった。
「梓、遼ちゃんと何かあった?」
夏休みが明けたらすぐにある学園祭に展示する写真を撮るために、香織と遠出をすることになった日。目的地までの電車の中で香織が尋ねてきた。
何かあった…とは言えなかった。香織が渚を好きだということを遠回しに伝えたから、こうなった、なんて口が裂けても言えなかった。香織は遼が自分のことを好きだなんて思ってもいないし、勝手に香織の好きな人をバラしてしまうなんて最低なことを伝える勇気がなかった。
「せっかくテストも全部クリアして晴れて夏休み〜なのに、全然4人で集まれなくて寂しいね。まぁバスケ部忙しそうだからそんなに集まる機会もなさそうだったけどさ」
残念そうに呟く香織だったが、急に思い出したように、
「あ!でもさ!追試なかったから花火大会、ナギちゃんと行けるんだよ〜」
と嬉しそうに言った。
「梓は?遼ちゃん誘えた?」
その問いに言葉が詰まる。
「誘った…」
「えーすごいじゃん!やったね!!」
「でもそこからちょっと気まずい感じになっちゃった」
そう続けると、香織は困った表情を浮かべていた。実際は、2人で行くと言ってくれた。気まずくなるような言動をしただけなのに、私は本当にズルい女だ。
「そっかぁ。今までずーっと幼馴染としか見てなかった梓に誘われて戸惑ってるんじゃないかな?遼ちゃんは嫌だったら行かないって連絡来るだろうし、大丈夫だよ。そこで仲直り?できるといいね!」
私のしたことを知らずに、まっすぐ応援してくれる香織。香織のこういう所が、私は好きだ。何かで悩んでいるときいつもこうやって前向きな言葉をくれる。香織はいつも前向きで、まっすぐな人間だ。
「梓、頑張ろうね!部活も勉強も恋も!!」
香織のまっすぐな気持ちを受けて、きちんと遼と話をしようと決めた。
少しモヤモヤした気持ちが晴れ、香織と2人たくさん写真を撮ることができた。夏が過ぎても、まだたくさん楽しみがある。
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