第10話

「あ。おはよう、アズ」


 次の日の朝、学校を休みたい気持ちでいっぱいになりつつも、いつも通り支度をしてドアを開けるとたまたま渚がいた。


「おはよう、渚…」


 泣き腫らした目を見られたくなくて、挨拶をしゆっくりとドアを閉める。


「いやいや。学校行くでしょ?何してるの」


 渚にドアを開けられる。出かけようとしていたのが再び家に戻ったら当然の反応だ。観念して渚の隣を歩く。いつもはバスケ部の朝練があり渚は早く登校するため、朝会うのは久しぶりだ。

 ーどうしてこんなタイミングで会うかなぁ…。


「渚、勉強してる?」


 泣き腫らした顔について触れられたくなくて、勉強の話題を振ってみる。


「うーん、あんまり?」

「まぁでも渚は頭いいから心配いらないか」


 渚は勉強ができる。中間試験では学年で5位だった。バスケも上手いし、何でもそつなくこなす天才肌タイプだ。


「昨日カオに勉強教えてって言われて、一緒に図書室行ったけど、まだそれぐらい?」

「え!?香織と2人で!?」


 思わず、大きな声で聞き返した。香織は香織でちゃんと行動してるんだと感動した。


「俺はアズと遼も誘う?って聞いたんだけど、2人より私の方がヤバイから助けてって」


 そう言いながら、思い出し笑いをする渚。確かに香織は中間試験で赤点を取って追試を受けた科目がある。期末試験は追試をクリアできなければ、夏休み補習の予定でほとんど埋まってしまうから必死なのだろう。


「そっか〜。渚が見てくれるなら今回は安心だね」

「うん。でも結局はカオ次第…」


 そう言った後にふと、


「そういえば、赤点取らずに終われたら一緒に花火大会行こうとも言われた」


 と続ける。


「アズと遼は毎年家族ぐるみで行くんでしょう?だからって言っていたよ」

「そ、そうなんだよ〜。だから渚が良ければ香織と行ってあげて」


 本当はお互いの家族みんなで行っていたのは小学生の頃で、中学に入ってからは香織を含むクラスメイト達と行っていたが、そう言った方が誘いやすかったのだろうと思い、とっさに話を合わせた。


 そんな話をしている内に駅に着いた。バスケ部の朝練がない日は、時間を特に示し合わせていなくても同じ電車に乗るのが3人の暗黙のルールになっているが、改札の近くに遼の姿はなかった。


「あれ?遼いないの珍しいな」


 辺りを見回す渚の隣で俯くことしかできなかった。


「先行くかー?アズ…どうかしたか?」


 渚の問いに俯いたまま首を横に振る。渚はそれ以上何も聞くことなく、2人で学校へ向かった。

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