第8話

「梓、放課後ノート見せて」

「うん、いいよー」


 期末試験まであと1週間という日の昼休み、遼が言ってきた。今日から試験終了まで部活動も休みに入る。きっとそろそろ声がかかると思っていた。遼は中学生の頃からテストが近づくと私にノートを見せてと頼んでくるからだ。

 遼も真面目に授業を受けているが、“梓のノートの方がまとまっていて分かりやすいから”という理由でいつもノートを求められる。中間試験の時もそうだった。


 あっという間に放課後になる。みんな試験勉強をするため、図書室へ行ったり、早く家に帰ったり、自習室に行ったり色々だ。


「どこでやる?」


 私がそう尋ねると遼は「ん~」と教室を見渡している。教室にはクラスメイトが数人居残って勉強をするようだ。


「梓の家は?」

「別にいいけど…」

「んじゃ決まり。行こうぜー」


 さっさと教室から出ようとする遼に


「あ、待って、渚は?」


 と聞いた。遼が私の家に来る時はいつも渚も一緒に帰る。


「渚は今日はなんか用事あるってさー」


 そういえば、もう教室にはいなかった。部活が休みの日は大抵遼といるのに珍しい。


「珍しいこともあるんだねー」

「ん?まぁそういう日もあるだろ」


 2人きりで帰るのは久しぶりのことだった。高校に入学してからは初めてかもしれない。

 ー渚には悪いけど、久しぶりの2人きり!!嬉しい!!

 心の中でガッツポーズをした。


 電車に揺られ、私の住むマンションまで歩く。途中でコンビニに寄り、飲み物とアイスを買った。

 ふと電柱に貼られた花火大会のポスターが目に入り、足を止める。


「もう花火大会の季節か~」


 遼も隣に立ち止まりポスターを見て言った。これは誘う絶好のチャンスかもしれない。


「遼!!」

「ん?なんだよ」


 足が震える。花火大会なんて遼とは毎年のように行っている。と言っても家族と一緒だったり、中学生になってからは香織もいたため、“2人きりで行こう”なんて誘うのは初めてだ。


「は、花火大会一緒に行こう?」


 言った。握りしめた手は汗でびっしょりだし、背中にも汗が伝っているのがわかる。


「いや、何をそんな改まって。最初からそのつもりだけど?」


 遼はそう言って笑うが、きっと“2人きり”は想定していないはずだ。


「渚と香織にも声かけるだろう?」


 ーやはりそうだ。


「-違う…。今年は遼と…2人で行きたい…」


 一気に顔が熱くなるのが分かった。赤くなった顔を見られたくなくてパッと下を向く。恥ずかしさと緊張で、遼の方が見れない。

 一体どんな顔をしているのか。突然こんなこと言って遼はどう思うのか。とても怖い。買ったアイスに熱が伝わり溶けてしまいそうだ。


「-いいけど…」


 遼の言葉に顔を上げた。遼は顔を片手で隠している。


「遼?どうしたの?」


 遼の様子がおかしい。


「な、何でもない。と、とりあえず帰ろうぜ」


 そう言って遼は私の家の方へと歩き出した。私も慌てて隣に並んで無言で家まで帰った。

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