第7話

「香織は、渚のどこが好きなの?」


 帰り道、ふと気になったことを聞いてみる。


「んー…顔?」

「顔!?」


 まさかの返答に驚きの声をあげると香織がアハハと声をあげて笑った。


「嘘、嘘。顔ももちろん好きだけどさ。ナギちゃんって表情が豊かじゃないから最初近寄りがたいな〜って思ってたの」

「確かに、そんな所はあるかもね」


 初めて会った時、無表情で挨拶をされたことが既に懐かしい。

 渚は中性的で整った顔立ちをしているが、女子があまり騒がないのは、なんとなく近寄りがたい雰囲気をまとっているからだろう。


「でも私がカオって呼んで〜とか冗談で言ったことを真に受けて呼び続けてさ。なんかそういう真っ直ぐな所が可愛いなって思って…。優しいし、普段はあんまり笑わないのに、私達と遊んでる時、楽しそうにするじゃん。笑った顔が好きなんだよね」

「なんか、香織…。本当に渚のこと好きなんだねぇ」


 え!!と顔を真っ赤にして焦る香織がとても可愛い。こんなに照れている香織を見たのは初めてかもしれない。


 ー遼の気持ちをなんとなくわかっているから複雑だけど…。


「香織!!応援する!!私にできることがあったら何でも言って!?」


 思わず手に力が入ってしまった。

 遼には悪いがこんなに可愛い姿を見て応援しないなんてことは出来ない。それに、ズルい考えだが遼の恋が上手くいかない方が私にも都合がいいのだ。


「ありがとう、梓。私にも何でも言ってね!!協力するから!!」


 香織はそう言ってくれたが、流石に自分の好きな人に他の子と上手くいくように手助けをされるのは、あまりに遼が気の毒だと思い


「ありがとう!!お互い、頑張ろうね」


 とだけ返した。


「梓は、遼ちゃんのどこが好きなの?」

「え、えーっと、どこ…だろう?」


 ふと聞かれると、言葉に詰まってしまう。私は遼のどこが好きになったのか、好きは好きだがどこかというのを改めて問われると答えに詰まる。


「あ~、一緒にいるのが当たり前すぎて今更わからないか」

「あ、そうそれ!そんな感じ!!ずーっと1番近くにいたからさ、遼がいないことが想像できなくて」

「なんか熟年夫婦みたいだね」


 香織が笑いながら言った。確かにそうかもしれない。


「でもいいなぁ、そういうの。そうやって長く一緒にいたからこその感情だよね。恋っていうかー…“愛”みたいな?」

「愛!?そ、それはなんとなく恥ずかしい」


 でも、そうかもしれない。遼といるとドキドキして胸が苦しいという感情よりも、落ち着いて思わず眠ってしまいたくなるぐらい、隣にいて安心できるのだ。


「そういうのってなんかいいね!私もいつかそんな風になれるかなぁ」

「でも私もふられたら、その関係崩れちゃうし…」

「だね。それは怖くて中々行動できないのもわかる。難しいよねぇ〜」


 香織はウンウンと頷きながら、言った。こんな話をずっと誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。


「でも、頑張ろうね…」

「うん。頑張ろうね…」


 2人で誓った。

 遼は香織が好きだから、この居心地が良い関係を壊してしまうのかもしれない。それでも、この関係を崩さなければ、前に進むことはできない。頑張ると言う香織に勇気づけられてしまった。2人なら怖い気持ちも和らぐだろうか。

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