第3話

「梓~」

りょう! おはよう」


 券売機の近くで立っていた遼が私に気づき、手を振って駆け寄ってくる。


「んー…と、どちら様?」


 私の隣に並んでいる渚君を見て不思議そうな顔を浮かべる。


「昨日隣に引っ越してきた…」

遠野渚とおのなぎさです。よろしくお願いします」


 頭を下げる渚君に対し、遼もお辞儀をする。


「俺は山本遼やまもとりょうです。梓の幼馴染なんだ。よろしく!」


 握手を求める遼に少し戸惑いながらも、渚君も手を差し出している。


「あの、2人は付き合ってるー…とか?」

「え!? い、いや付き合ってないよ!!!」


 渚君の突然の質問に驚き、変な声が出てしまった。全力で首を横に振ってしまい、少し痛い。こんなに力いっぱい否定して渚君に変に思われたかもしれない。

 ー付き合ってはいない。私の…片思いだ。


「あ、そうなんだ…待ち合わせしてるからてっきり…」

「保育園からの腐れ縁なんだよなー。もう15年の付き合い」


 人の気持ちも知らずに頭をポンポンと叩きながら笑う遼に少し苛立つ。遅れるから行こうぜと遼が言うので自己紹介もほどほどに改札を通り予定通りの電車に乗り込む。3人並んで立っていると遼がふいに私と渚君を交互に見て笑った。


「なんかさー、遠野渚とおのなぎさ河野梓こうのあずさって名前の雰囲気似てるよな」

「そうかな?」

「うんうん。家も隣同士なら仲良くなれるじゃん? 梓の面倒見る役が増えて俺の気も楽になるよー」

「面倒なんか見てもらってないでしょ!! むしろ逆に迷惑かけられてるから!!」


 ついムキになっていると、遼にこいつ怖いだろーと渚君に言われてしまった。苦笑いする渚君、昨日のこともあるし私の印象はあまり良くないのではないだろうか。

 そんな話をしていると、あっという間に学校の最寄り駅に到着し、3人で学校まで歩く。遼と渚君は少し話しただけなのに気が合うのか、既に仲良しな感じだ。


「梓ーーー!」


後ろから思いっきり抱きしめられる。こんなことをするのは1人しかいない。


「もう香織かおり!! やめてよー」

「いいじゃんいいじゃん~」


そう言いながら離れようとしない香織は、ふと渚君を見て、誰?と耳打ちしてきた。


「昨日隣に引っ越してきた遠野渚君。渚君、こっちは中学からの同級生の七海香織ななみかおり

「よろしくねー」


よろしくと返した渚君を品定めするかのように観察する香織を遼が軽く小突いた。


「おはよー、香織」

「あ、遼ちゃん。おはよー。みんな同じクラスになるといいねー」


優しい瞳をする遼。私を見るときの目とはまるで違う。香織も遼と話しているとき、いつも楽しそうにしていて、今も自然と2人が並んで前を歩く形になった。


ーもう、いつまでも遼のことばっかり考えてないで!新たな恋をする!!


改めて、決意をした。高校入学の日。新たな始まりの日。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る