第31話


 その次の日は金曜日だった。

 その日は、どんよりとした雲が出ていたので、天気予報では曇りだったが、私は折り畳み傘をカバンに入れた。雲は肩に重くのしかかっているかのようで、私は学校に向かう足取りが重くなった。

 朝、授業の支度をしていると、クラスが妙なざわめきに包まれた。初めは無視していたのだが、やけにしつこいので、私は声のするほうを振り向いた。教室の後ろのドアには、小さな人だかりができていた。

 その隙間から垣間見れたのは、こだまだった。

 彼女はもう何日も食事をしていないような、やつれた顔をしていた。細い腕はより細くなり、頬の肉はこけていた。そして、いつもならキラキラしている大きな目には生気がなかった。

 私は、ぞっとした。

 由美さんが人をかき分けこだまを席まで連れている。

 それでも私には、言わなきゃいけないことがある。

 そう思って、立ち上がろうとした。

 その時だった。彼女と目が合ってしまった。

 こだまは、その痩せこけた頬を少し引きつらせて、ゆっくりと目線を落とした。まるで、見てはいけないものを見てしまったかのような表情だった。

 私はそのまま固まってしまった。動かなければならないのに、体が言うことを聞かなかった。

 私は、とんでもないことをしてしまったようだった。どう責任を取ればいいのかわからないほどの、おぞましいことを彼女にしてしまった。もう、時間を戻すことはできない。あの言葉を取り消すことはできない。

 私は失った代償の大きさに、ただ立ち竦むことしかできなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る