第7話


 今日は金曜日で、こだまは「部活があるから一緒に帰れなくてごめんね」などと言って教室を出て行ってしまった。仕方がないから、一人で帰ることにする。いつの間にか一人で帰ることの方に違和感を覚えるようになっていて、少し信じられなかった。

 支度を終え、一人で廊下を歩きながら、今日のこだまの様子を反芻する。彼女の味方だ、と言った手前、三人の関係をもっと詳しく知る必要があった。だから今日は訳もなくこだまの席に集まる三人の横を通ったり、手鏡で後ろの方の席にいるこだまたちの様子を観察したりした。そうした努力によって、気づけたことが二つある。

 一つは、彼女の笑い方だ。彼女は二人と話している時、愛想笑い、というのだろうか、どこか取り繕ったような笑顔を浮かべる。二人に合わせて無理して笑っているような。少なくとも私と話している時の笑い方と違っていたので、印象に残ってしまった。

 もう一つは、西尾由美さんと東野佳菜子さんはこだまに対して悪意があるわけではなさそうだということだ。というよりむしろ、積極的に仲良くしようとしているようにも見える。休み時間のたび、というわけでないが、時間があったら彼女の席に集まっているようだし、移動教室の時も三人で動く。そんなにベタベタされたら疲れるだろうと思うのだが、こだまはそれを拒むことなく一緒にいるようだった。

 不自然なこだまと、彼女に近づこうとする二人。そして押し付けられる宿題。

 何かが噛み合っていない。

 正門まで着くと、霧のような雨が首筋を濡らし始めた。はっとして折り畳み傘を出す。そのとき教室を出てから延々と続いていた思考が途切れた。それがよかったのかもしれない。私は今日一日、こだまのことばかり考えていたことに気づいてしまった。

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