第4話
こだまは電車で通学しているらしい。
昇降口でいつも反対側に向かうので、家はどの辺かと尋ねた。こだまはちょっとためらうような仕草を見せてから、「金川のほう」と答えた。
「……珍しいわね」
金川駅は学校最寄りの亀池駅から三つ離れた駅で、市を一個挟んで金川市はある。わざわざそこからこの高校に来る人は少ないと思う。私が知っている狭い範囲では初めてだった。
「う、うん。雰囲気がこっちの方が良かったっていうか」
ぼんやりとした理由を話すこだま。
まあ、立地は悪くない。
学校の目の前には自然豊かな亀池公園があるし、それに隣接して県内トップクラスの蔵書を誇る亀池図書館もある。駅前はそれなりに栄えていて、カラオケ、ゲームセンターなど遊ぶ場所には困らないらしい。私は駅前の本屋以外はほとんど行かないが。
「みゆきちゃんってお姉ちゃんみたいだよね。妹とか、いる?」
突然、こだまが聞いてきた。話題が急に変わったことを不思議に思えるほど会話に慣れたわけでもない。私は彼女との会話についていくので精一杯だった。
お姉ちゃんみたい、か。
そんな風に見えるだろうか。こだまは下から上目遣いを覗かせていて、思わず目をそらしてしまった。
「私、末っ子なのよ。上に姉さんと兄さんがいるわ」
どちらも上京して今は家にいない。両親は共働きなので、家にいるときは一人でいることが多い。
「え、そうなの。意外だね」
驚いたように言う彼女は私より五センチくらい身長が低い。
どちらかというと。
「こだまさんは、妹みたい」
「よく言われる。下に小六の弟がいるよ」
よく間違われるんだと微笑むこだま。あどけなさが残る彼女の微笑みは私の中の「姉」像とは重ならなかった。
「お互い、らしくないわね」
姉のような妹と、妹のような姉。
自然と、そんな感想が漏れた。
「そうだね」
くすくすと笑い声が響く。彼女の笑い声も自然なものだったと思う。
――もし彼女が妹だったら。
とても楽しいだろうし、可愛がるだろうな。家にいる時に時折感じる、あのなんともいえない寂しさも、なくなるかもしれない。
帰り際の彼女の手を振る姿を見て、そんなことを思った。
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