場違いバカップルとけじめ案件



「サボってんじゃねぇぞテメェら!」



 俺の配下であるチンピラ集団にも、攻略対象しか装備できないような超高性能の武具を与えている。

 戦力としては過剰なくらいだと思っていたが、勢いづいた敵は怒涛の進撃を見せていた。


 戦況はむしろ、徐々に押されつつある。


 黒い渦のようなものから続々とアンデッド系の魔物が現れ。

 際限なく敵の数が増えていくのだから、時間経過と共に不利になっていた。



「放っておいたら無限に増えるだろうが! 早めに対処しろ!」

「だ、だがようお頭……」

「敵の数が……」



 速攻で片付けるしかないと言うのに、遅々として戦線は進まない。


 クリス、パトリック、それからグラスパー伯爵が暴れている右翼側は優勢のようだが、サージェスとワイズマン侯爵が戦っている左翼側は苦戦気味だ。


 魔王に一番近い中央など、本来居ないはずのクライン公爵軍と俺の私兵を含めてもかなり厳しい状況にある。


 しかし一番戦力が集中しているのも中央軍なので。

 何とかして中央が右翼に合わせ、左翼まで援護しなければいけない。


 ここでテコ入れするなら、やはり俺の部下だ。


 俺の配下が持っている武器は最高性能でも、扱うのが逃げ腰のチンピラでは威力も半減している。

 ……手を打つとすれば。もう最後の最後まで、これしかないのだろう。



「進め、野郎ども!」

「だから敵が――」

「うるせぇ、給料三倍だ! 大将首には十倍出すぞ!!」



 そう。俺に切れるカードなど金しかない。

 これも原作に無かった強みの一つだろう。


 最終決戦でまで再確認させられたが。まあ効果は絶大だった。



「うっひょぉぉおお!!」

「それを先に言えってんだ!」

「あのデカブツは俺の獲物だぜぇぇええ!!」



 配下の士気を上げるのは非常に簡単で助かったとして。

 問題はここを抜けてから、魔王をどう倒すかだ。


 今はとにかく、敵の膝元まで辿り着くことが優先なのだが。

 魔王のところへ着いたとして、一体どう戦えばいいのか。



「ああ、なるほどね。放っておくと敵が増えるから、少数精鋭で突っ込むのね!」

「そうみたい! 原作との整合性が取れるわね!」



 対魔王戦の主力となるであろうメリルと、イレギュラー参戦のリーゼロッテ。

 この二人は間違いなく主軸になるだろう。

 ちなみに今はリーゼロッテとメリルの二人が最前線で、背中合わせで戦っている。


 悪役令嬢とメインヒロインの共闘タッグと言えば熱い展開のはず――なのだが。


 両者、近接格闘の肉弾戦だ。


 拳と蹴りだけで何とかする乙女ゲームの主演たちを見て、もう呆れるしかない。

 絵面が酷いとしか言えない。

 メリルの方は魔法も使えるだろうに、彼女も正面からの殴り合いを選んでいる。


 魔法なら何とかなるビジョンも見えるが。



「全長数百メートルの相手を肉弾戦で何とかするのは無理じゃねぇかな」



 と、途端に弱気な発想すら出てくるくらいだ。

 そうしていれば、本陣の方から白衣を着た男が何名か駆け寄ってきた。



「会長ーッ! 本陣に設置された魔道具が起動可能になりました!」

「射撃を開始します!!」



 商会の研究者が伝令にやって来たようだが、話を聞けばどうやら固定砲台の設置が終わったらしい。

 ウォルターを集中砲火した兵器を、更にパワーアップさせた最新式のようだ。


 そして、伝令が着いた数分後。


 味方がいない敵陣後方に向けて弾が飛んでいき、派手な爆発を巻き起こし始める。

 おかげで前線に流れる敵が少し減ってきた。



「今だ! 突破するぞ!! 俺に続け!!」



 魔力の残量も気にせず、上級魔法乱れ撃ちだ。

 一番得意な氷の魔法を使い、群がる敵を全て氷の塊へ閉じ込めていく。


 が、上級魔法がどれぐらいMPを使うかは、原作で確認済みだ。


 今の俺だと恐らく五、六回は限界なところを。

 クソマズイ回復ポーションをがぶ飲みして、十二発ほど放ってみた。


 しかし現実的には水っ腹になるし、回復量がぐんぐん落ちている気がする。



「景気いいことを言ってはみたが……しんどい。この数は、流石にしんどい。ここらで一回、休憩入れたい」

「泣き言を言わないの! さあ、特攻よ!」

「敵本陣に突っ込むよ、全軍。進め!!」



 妹分と弟分は、休むことを許してくれないらしい。

 それどころか、このまま敵陣へ突入する気満々のようだ。


「だったらデカブツだけでも何とかしてくれ! 小物は対処するから!」


 味方の総大将が敵の総大将と直接対決するなど、狂気の沙汰なのだが。

 ここまでくれば仕方がない。

 俺が覚悟を決めて前を向けば、各々の判断で散開しようとしていた。



「分かった。じゃあ私は左サイドに行くから!」

「それなら私は――」

「危ないっ、メリル!」 



 不意に敵の遠距離攻撃魔法が飛んできて、着弾前にラルフが盾で受け止める。


 窮地を救われたメリルはと言えば――目がハートになっていた。



「ありがとう、ラルフ……」

「だ、大事なお前に、怪我なんかさせられないからな」



 戦場のど真ん中で見つめ合い、何故か甘酸っぱい雰囲気を出し始める二人。

 叱ろうかと思ったが、あまりの場違いさで咄嗟に声が出なかったし。



「なるほど。ああいうやり方も……」

「あ、あれはあれでいいものよね」



 その様を見ていたハルとリーゼロッテも何を思ったのか。

 少し勢いが落ちて、互いにチラチラと横目で伺うような戦いをするようになった。



「サボってんじゃねぇぞそこのバカップル! ハルとリーゼロッテも羨ましそうな顔をしてねぇで、真面目にやれ!!」



 主力が急にサボり始めたものだから、俺にかかる圧力が急激に増えた。

 これは本格的にけじめ案件だろう。


 それでも戦況は再びこちらに傾いている。

 近衛騎士たちの頑張りもあり、何とかあと一歩のところまで進んだのだが。



「一番槍は貰い受けるッ!!」

「負けるなパトリック! 全速前進だ!!」

「はーい……」



 まさかの右翼軍が敵を抜ける方が早く、戦車を引き連れて魔王に突っ込むクリスとパトリック。

 それから、戦車と同じくらいの速度で走るグラスパー伯爵が飛び出していった。


 メインヒロインよりも先に、サブの攻略対象とモブキャラがまさかの本陣突入だ。



「こ、これで間に合わなかったら、粛清案件に変わる気がする」



 いくら後日談的なDLCだろうと乙女ゲームの一部だ。


 原作と同じ点を見つける方が難しいような惨状ではあるが。

 しかしラルフエンディングに入った世界で、ラルフとメリルの出番が来ることなく終わればどうなるだろうか。


 それはそれで、乙女ゲームの神が降臨しそうな気もする。



「ちくしょう」



 これだ。いつもこれだ。

 どこまで出世してもどこまで財力を得ても、結局は身体を張ることになる。


 ここまで来れば防御を捨てて、遮二無二進むしかない。



「ああもういいよ! やるよ! やりゃあいいんだろ、やりゃあ!!」



 進軍速度を上げるため、俺は再び上級魔法に切り替えて。

 強引に敵の波を切り裂いていった。


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