第百二十一話 ざまぁ



「どうしたどうした! 俺はこっちだぞ!」

『待て、レインメーカー! ちょこまかと逃げ回りおって!』



 俺は部隊を二つに分けた。


 一つはウォルターに破壊された、礼拝堂のバリケードを修復する班。


 もう一つは時計塔までの道に伏兵として隠れて、俺が通り過ぎた瞬間にウォルターを攻撃する班だ。

 バリケードでいくらか時間を稼いだ後、一部の人間には先に配置についてもらった。


 伏兵と言っても武器弾薬の在庫は尽きているので、近場にあったものを投げつけているだけなのだが。

 これは別に、手傷を与えるのが目的ではない。


 奴をイラつかせて、ついでに「俺たちにはもう攻撃手段がない」と思い込ませればそれでいい。


 目論見は当たったようで、スラムのチンピラたちから石ころや生ゴミをぶつけられたウォルターは、狂乱状態とも言える激怒ぶりで追いかけてきた。



『貴ッ様ァ! 往生際が悪いぞ! 死ね! 死ねッ!』

「それを言ったらお前だって、いい加減しつこいんだよ!」



 奴は手当たり次第に魔法を乱射していくので、もちろん俺も被弾しているし。

 大聖堂の至るところで爆発が起き、建物が破壊されていく。


 まあ、教会の人間には悪いが。戦後に補償でもさせてもらえばいいか。


 そんなことを考えつつ、不毛な罵り合いをしながら時計塔に辿り着いた。



 先に行かせたエミリーが準備を終わらせてくれているはずなので、俺は上部に向かう階段を駆け上がっていく。


 ただの螺旋階段ではなく。途中には水車のような歯車やら機械仕掛けやら、小部屋やらが密集した無駄に複雑な造りなのだが。この立地がむしろありがたい。



 ウォルターは全てを破壊しながら一直線に向かってきているが、俺が目的地に到達する方が早かった。


 時計塔の中ほど。山で言えば中腹くらいの高さまで登ると、エミリーが大部屋の一つで待っているのが見えたので。彼女と合流した俺は、遅れてやって来たウォルターと対峙する。


 いくつかの歯車。そして木箱を挟んで向かい合ったのだが。



『クハハハハ! もう逃げ場は無いぞ! 今度こそ息の根を止めてくれる!』



 思えば「原作」だと、こいつは本編に登場すらしない。


 俺を破滅させる可能性があるというだけのモブキャラが、よくもまあここまで派手にやったものだ。



「全く、長かったよなぁ。ここまで」

『何だ? 命乞いなら聞かんぞ?』

「聞いてもらえるなんて思っちゃいないさ」



 ウォルターとの会話は徹頭徹尾てっとうてつび。最初から最後まで何の意味もない。

 どこまで行っても、一度たりとも噛み合うことは無かった。


 そう言えばサージェス誘拐の容疑を被せてきた時も、会話は成立していなかったな。

 と、奴のムカつく喋り方とセットで、当時のことを思い出す。



「メリルには冗談で言ったんだが。お前が相手なら心の底から言えるよ」

『何のことだ? 気でも触れたか!』



 俺がアイツの立場なら、悠長な話に付き合ったりはしない。一切遊ばずに、最初から全力で殺しに行く。


 出城から撤退する時でもいいし、街中を逃げている時でもいい。殺すタイミングならいくらでもあったはずだ。

 いたぶってやることなど考えずに、速攻で始末しただろう。



「気が触れた? まさか。俺はな、ずっとお前に言いたいことがあったんだ」



 コイツの敗因は全部、調子に乗ったことだ。


 人間、急に過ぎた力を手に入れるとおごるよなぁ。


 そんなことを考えつつ、俺はエミリーが持っているスイッチに手を重ねる。


 そしてエミリーに目配せをしてから――




 時計塔に仕掛けてある、大量の爆薬に点火するための、起爆スイッチを押した。




 数秒後。


 時計塔のあちこちから爆発音が響き渡り、レンガが砕けるような音を立てて、建物が崩壊を始めた。


 時計塔全体が激しい振動を始めたので、奴は慌てふためいている。



『な、なんだ!?』



 こんな形で使うことになるとは思わなかったが、これもメリル対策の一つだ。


 王都襲撃イベントの前倒しによって放置されてはいたが。

 時計台の解体工事をするために、塔の全体にこれでもかと爆薬を積んでいたのだ。


 デートスポットを潰すための工事がトドメになるとは何とも締まらない結末だが、コイツの末路としてはこんなものだろう。


 ――いや、ここがコイツの墓だとするなら。そこらの国王よりも豪華な葬式だ。

 


「総工費、金貨三万枚の工事でド派手に散るんだ。むしろ感謝してもらおうか」



 俺をエサにして、時計塔のど真ん中にまでウォルターを連れ込んだ。


 俺たちの背後。進行方向には窓があるので、俺たちは窓から飛び降りて脱出させてもらう。


 だが、奴にはこのまま大量の瓦礫で生き埋めになってもらうとしよう。


 これがステージギミックのような扱いになるかは分からないが、十数階分の高さがある建物の崩落に巻き込まれれば、現実的に考えてお陀仏だぶつだ。



「なぁウォルター。五年くらい前から、ずっとお前に言いたかったことがあるんだ。こんな形になるとは思わなかったが、別れの挨拶として受け取ってくれ」

『なんだと――ぐぁっ!?』



 この仕込みをエミリーに頼んでいたのだが。部屋の入口にも、いくつか爆薬を移動させてある。


 ついでに俺が持っている装備にも自爆機能は付いているので、最後の武装である極光の剣を、起爆状態にして投げ捨ててやった。


 爆発の炎に巻かれたウォルターを背後にしながら、俺は脱出の直前に吐き捨てる。




「ざまぁ」




 文字通り、時計台で叩く・・・・・・作戦だ。

 

 あまり得意でもない風魔法を展開して。俺はエミリーを抱えながら、緩やかに落下していく。


 反対方向に倒れて行く時計台と、崩壊する塔の下敷きになっていくウォルターを見送りながら。俺は万感の思いを込めてバカにしてやった。



 調子に乗るから負けるんだよ、このマヌケ、と。


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