第百二十話 原作では絶対にあり得ない、ゆかいな仲間たち



『ぐおおおおおおっ!?』



 凄まじいスピードで突っ込んだウォルターは砲弾に迎撃されて、何十、何百という爆発に巻き込まれていく。


 その様はまるで汚い花火のようだ。


 威力は親分に撃たせたものに劣るようだが、連射力が半端ではない。

 路地を挟んだ向こう側からも、砲弾が飛んできているのだが。



「ガトリングガンに迫撃砲かよ……えげつねぇ」



 迫撃砲の狙いは大雑把だが、主砲と違い攻撃範囲はそれほど広くないので、俺には当たらずに済んでいる。


 辺り一帯の建物ごと吹き飛ばすような勢いの連射が降り注いで――辺りは更地と化した。


 未だに煙が立ち込める中、俺は爆心地を迂回するようにしてエミリーの元へと向かう。



「決着ですね」

「あー、その、なんだ。色々と言いたいことはあるんだが」

「終わりが良ければ全てよしですよ」



 兵器を準備していたこととか、ウォルターの姿を見ても大して驚いていなかったこととか、俺が追われてくるのを知っていたこととか。


 本当に色々と言いたいことはあるが、まあ、確かにそうだ。

 倒せたのだからよしとしよう。



「と言っても、まだ戦場だ。さっさと引き揚げよう」

「そうですね、アランさ――」

「どうしたエミリー?」



 俺の背後を見て絶句したエミリー。

 まさかと思い振り向けば、ウォルターは未だに健在だった。


 土煙が晴れてくると、全身から緑色の血を流しながらも、ゆっくりと立ち上がる奴の姿があった。



『舐めるなよ……小娘が。この程度で、私が倒れると思ったか』

「……エミリー、まだ何か作戦とかある?」

「……いえ。アラン様は?」



 様子を見ればフラついてはいるので、もう少しでトドメを刺せそうなのだが。

 魔道砲の弾は全弾撃ち尽くしたようだし、俺の攻撃ではダメージが通らない。


 ワイズマン伯爵家の私兵と共に囲んでも、あの攻撃で生きているくらいなら気休め程度のダメージしか与えられないだろう。



『……皆殺しだ』



 全身から血を流してなお、退かずに追ってくるとは大した根性だが。


 ――そう言えば、奴にトドメを刺せるような仕掛けがこの先にあったな。


 と、俺は気づいた。



「よし、一旦大聖堂まで逃げるぞ」

「はい、アラン様」

『待て! 逃がさんぞ虫けら共!』



 威勢のいい声の割りに、ウォルターの動き出しは遅い。


 俺は確実にトドメが刺せると確信しつつ、エミリーたちと共に退却した。











 先ほどよりもかなり追撃速度が落ちていたので、逃げ切るのも容易だった。


 私兵たちが退却しながら攻撃を仕掛けたこともあり、俺たちは数分で大聖堂に辿り着く。


 大聖堂の入口――礼拝堂の前に山と積まれた椅子や机のバリケードをよじ登って中に入れば、そこには避難民の他に、先に避難していたであろう俺の私兵たちの姿もあった。



「親分と、他の奴らも無事か」

「おう、脱落者はいねぇみたいだ。……どうする? このまま籠城して騎士団が帰ってくるのを待つか。それとも衛兵隊と合流して反撃に出るか」

「敵のボスらしき奴がこっちに向かっています。時計台で叩きましょう」



 俺が提案をすれば、親分は頭に疑問符でも付きそうな顔をして首を傾げていた。



「迎撃するにしても、礼拝堂の方が頑丈だぞ。わざわざ移動する意味があんのか?」

「確実に倒しきるには、そっちで戦わないといけないんです」

「……何か策があるのか」

「ええ、まずは聞いてください」



 街に雪崩れ込んだ魔物は、衛兵に何とかしてもらう。

 今まで引き籠っていたのだから、さぞかし元気なことだろう。街の平和は彼らに任せる。



 魔物の半数は削ったのだから、後は任せてもいいだろう。


 俺にとっては、今から時計塔で行うものが最後の戦いだ。



 本来の・・・アランルートだと、「王都襲撃」に伴う「スラム街防衛戦」がシナリオの山場になる。

 それにここを過ぎればアラン・・・は共通イベントにもロクに登場しないので、正真正銘最後の見せ場なのだ。



 いい機会だろう。


 俺にとっては・・・・・・数年続いた、ウォルターとの因縁も、今日でまとめて終わらせる。



「野郎ども、最終決戦って奴だ」



 親分とエミリー。それにスラムのチンピラたち。


 「原作」では絶対にあり得ないゆかいな仲間たちパーティ・メンバーを見渡して、俺は最後の作戦を伝えることにした。



 ――作戦を話している間、「原作」という単語にどこか引っ掛かりを覚えたが。

 まあ、考えるのは後にしよう。


 今はウォルターにトドメを刺すのが先だ。



 俺が集まった仲間たちに作戦を伝え終わるのと同時に、大聖堂の入口に積んであったバリケードが攻撃されるような音がしてきた。


 奴としては追い詰めたつもりなのだろうが、死地へようこそ。



 どうやらカモ・・がノコノコやってきたようなので、俺たちも配置についた。


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