閑話 人物紹介④



 マリアンネ・フォン・ウィンチェスター


 現在十三歳。クリーム色の髪の毛を緩くカーブさせた、ボーイッシュな雰囲気の少女。

 本来ならば本編には登場せず、名前すら出てこないモブキャラという立ち位置。

 パトリックの双子の妹であり、リーゼロッテに負けず劣らず、非常に活発な性格をしていた。

 

 アランたちが興した魔道具事業の煽りを受けて、ウィンチェスター家が没落寸前となったことで、パトリックが身売りされる危機に陥る。

 兄が人体実験の道具にされるという話を立ち聞きした彼女は、身代わりとなって研究施設に送られることを決めた。

 その後は本編の通り、アランの手によって救出されて秘書となる。



 アランの秘書に就任した後は大人に指示を出す立場となり、お転婆ぶりはすっかり鳴りを潜めたどころか。修羅場を潜り抜けた結果、時には冷徹な判断を下すようにもなった。

 兄共々性格が捻じ曲がってしまった感は否めないのだが、大体アランとクリストフのせい。


 四章ではアランからプロポーズを受けたと勘違いしたことから、婚約一歩手前まで話が進んだ。

 が、当人の強い希望により、成人になるまでの二年間は保留の状態となっている。


 アランは部下としか見ていないものの、婚約の話は水面下で着々と進んでいる。

 どうにかして他の相手を見つけようと頑張っているアランと、マリアンネを義妹にしようとするエミリーの思惑も絡み合い、どうなるかは全くの不透明。



「アラン様のことを、あなた、と呼んでみましょう。不意打ちで意識させるんです」

「わっ、分かりました。エミリーお義姉さま」






 パトリック・フォン・ウィンチェスター


 クリーム色の髪を緩くパーマさせた、小型犬のような雰囲気を持つ少年。

 乙女ゲームでは年下の癒し系男子、というかショタ枠として扱われていた。


 アランの行動によってウィンチェスター侯爵家が凋落したため、侯爵はそれに対抗するべく魔道具開発を行おうとしていた。

 魔法の適正があるパトリックは、研究者として支援者のところに出される――はずだったのだが、実は邪教の徒が人攫いをするための策略ということが、後に判明する。

 マリアンネが身代わりになったことで難を逃れたが、同時に彼の心には大きな傷を与えた事件だった。


 その後彼がどうしたかと言えば、荒事に対応できるようにラルフたちと共に訓練を受け始めた。

 リーゼロッテ発案の軍隊式トレーニングブート・キャンプを課せられた結果、性格は少し外向的で、荒くなった模様。


 今では侯爵家の魔道具事業で開発責任者を務めており、クリストフと共に新型魔道具の研究を行うのが日課。

 そのせいなのか、ついでに少しマッドサイエンティストの気が追加された。

 夜会で見た時と比べて随分性格が変わったようだ、とエールハルトが思うくらいには、性格が一変している。


 ウィンチェスター侯爵家を窮地に陥れたのがアランとクリストフなら、救ってくれたのもこの二人である。

 マリアンネを助け出してくれたこともあり、感謝の気持ちは持っているが。特にクリストフにはライバル心を燃やしている。



 四章後に「学園に通うのは別に義務ではないし、仕事が忙しいから独学でいいか」と零した場にアランがいたため、学園には絶対に通うようにと厳命された。


 上司というか、事業のオーナーであるアランの命令ならばと渋々学園に入学することを決めたが、学園生活へのモチベーションは低め。

 メリルから見た二番人気の彼が今後どうなるかは、まだ分からない。



「クリスさん。力場誘導回路で導線を迂回させていますが……エネルギーロスにはならないんですか? それならマギ・クォーツを使った共振作用を利用した方が効率が良さそうですけど」

「この形で設置すると、魔力循環系にも作用するんだ。無限回路を使ってもいいんだが、小型化するために性能を絞ることにしたんだよ。それにコスト面でも優秀で調達も容易だから、生産性が高いんだ」

「なるほど」


「……この二人の会話が、さっぱり分からねぇ」






 ドナルド・フォン・ウィンチェスター


 ウィンチェスター侯爵家の当主。クリーム色の髪をオールバックにしたダンディなおじさま。

 法律に造詣が深く、交渉でも常に隙を見せない男――だったのだが、四章では領地の弱みに付け込まれて大ポカをやらかした。


 アランが経営する魔道具屋との業務提携後は領内の経済がV字回復し、今や飛ぶ鳥を落とす勢いになっている。

 が、金を持っている上に騙しやすいと見られたのか、胡散臭い商人からの商談が増えたことが最近の悩み。


 可愛い娘はまだ十三歳で、相手を見つけるのは数年先だと思っていた。

 降って湧いた縁談ではあるものの、しかしアラン以上の良縁は無いのかもしれないと考えており、縁談には非常に前向き。

 クライン公爵家、ワイズマン伯爵家とも調整を始めており、包囲網は確実に狭まっている。


 ちなみにアランの予感は的中ビンゴ

 娘のマリアンネを溺愛しており、面と向かって男扱いされたとしたら、即座に交渉の席を立つくらいには激怒していた可能性が高い。



「息子は研究室に籠りっきりで口を利いてくれないし、マリアンネは急に大人になるし……はぁ」

「まあまあ、子どもはそういうものですよ。……リーゼロッテにも悩みは尽きませんので、心中はお察しします」

「……エミリーもです。気苦労は理解できます」



 主要人物全員問題児な件について、親の苦悩が垣間見えたとか何とか。






 トーマス・フォン・オーガスタス・カイゼル


 アイゼンクラッド王国二公五侯爵の頂点、カイゼル公爵家の前当主。

 六十八歳にして、未だ現役の宰相。

 頭は禿げ上がっており、怒ると顔面が真っ赤に染まる。


 幼い頃から現国王レオリアの教育係を務め上げ、今もエールハルトとサージェスの教育を一部担っている。

 彼が当主だった頃は、王子(現国王)と公爵家嫡男(現当主)が荒くれ者を率いてのカチコミを繰り返していたため、騒動を収めるために奔走していた。


 やや気弱ではあるが聡明なエールハルトと、へそ曲がりではあるが可愛いところもあるサージェスなら、そこまで手はかかるまい――と、思っていたのだが。


 ある日を境にエールハルトは武力一辺倒になり、当然の如く宰相の授業も減った。

 サージェスは歳を重ねるごとに傲岸不遜になり、気ままに過ごすようになった。だから授業へはまともに出席してくれない。


 それで寂しい思いをしたのも一瞬のことで、今や若い時と同じかそれ以上に問題が頻発し、東奔西走するハメになっている。


 王家や公爵家が問題児だらけのため、心労で胃を痛めつつあるのが目下の悩み。

 公爵家の執事にはシンパシーを感じている。



「サージェス殿下が行方不明と言うのに陛下はどこに行った!? 何? 地下牢へ遊びに行くだと!? ちょっと待て、エールハルト殿下が殴り込み!? ああもう、親子揃ってぇええ!」





 ロベルト


 スラム街の元締めをしている強面の男。

 リーゼロッテの従者を選ぶ条件を聞き、真っ先に思い着いたアランを紹介。

 アラン以外の人物を推薦していれば、リーゼロッテの行動以外は原作通りに進んだ可能性が高いことから。多くの人の運命を変えた原因とも言える人物。


 アルバートとは古くからの付き合いがあり、暴走癖がある彼のストッパーとして大いに活躍した。

 「王子は腕が立つそうだから、試しに襲撃しよう」というアルバートを、手下を引き連れて止めに行ったが。結果として全員まとめて蹴散らされることになった。


 これが後の国王レオリアとの出会いであるが、暴走する貴族が一人から二人に増えただけという認識で、現在に至るまでの二十数年間、いいだけ振り回されている。

 極め付きは「花嫁強奪事件」であるが、後始末にも散々駆り出された。


 アルバートは「頼られたら断れない」というロベルトの性格を熟知しているので、解決が難しい厄介ごとばかりを持ちこむ。

 ただし面子が関わることだけは一歩も引かず、公爵夫妻からアランに謝罪をさせるなど、場合によっては誰も逆らえない男になる。


 意外と頭は回る方で、舌戦では容赦なく正論とスラム街の流儀を叩きつけてくる、元祖世紀末式交渉術の使い手。



「すまないロベルト! リーゼロッテが師匠を探しているんだが、武術の達人で指導が上手く、問題を起こしそうにない――」

「スラム街に武術の達人なんているわけねぇだろ!?」


「親分、ちょっとお話があるんですが。実は発破工事のスペシャリストを雇いたくて――」

「だからスラム街に何を求めてんだよお前らは!」


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