44、ビンタくん一号


「……何だその浮かれた罰ゲーム……」


「あ、ごめんごめん。いけねぇ。カップルいるんだった」


 慌てたように鷺ノ宮は手を振った。


「冗談だよ。冗談」


「冗談?」


「いえすたかす」


 鷺ノ宮が大きくうなずく。

 見ると、二葉先輩がクスクスと笑っていた。


「あ、ナルくんが怒ってる」


「怒ってないです。理解できないんです」


「怒ってる怒ってる。ナルくんは分かりやすいから、分かるよう。ていうか、本当にそんなことやってるの?」


「やってますよ。カラオケとかで」


「へー……変なの」


「いかれてる」


「ボロカスに言ってくれるな。みんなじゃないっすよ。そういう奴らもいるって話し」


 俺の言葉に、鷺ノ宮は肩をすくめた。

 

 さっきからずっとトランプとにらめっこしていた剥不はがれずさんは、顔を上げると、呆れた様子でため息をついた。


「どちらにせよ、今のは失言。部長として恥ずかしい」


「はいはい、悪かったですよ」


「因果応報。全ての言葉は自分に返ってくる」


 剥不さんが、カバンから、先っちょに手袋がついた小さな釣竿つりざおを取り出した。


「罰ゲーム。鷺ノ宮助手が負けた場合は、このビンタくん一号で、ビンタだ」


 スイッチを押すと、手袋は目にも留まらぬ速さで回転し始めた。


「最大パワーにすると、電流が流れる」


 剥不さんがボタンを押すと、手袋から電気が流れるのが見えた。


「えぇ……」


 トランプを持つ鷺ノ宮の手が震える。


「やべぇだろ……殺される」


「どうでも良いから、早く始めよーよ」


「俺の命はどうでも良いんですかねぇ」


「私のターン。ドロー!」


 二葉先輩は問答無用で、鷺ノ宮からトランプを引いた。数字をそろえて、山札に捨てた。


「くふふ、残り3枚」


「ちくしょう。こうなったら絶対に負けないですから」


 俺の手札から引いた鷺ノ宮は、残り5枚になった。


「よし」


「せっかくなら楽しくやろうぜ」


 そう言って、剥不さんの方を見ると、彼女はカッと目を見開いて、手札を広げていた。


「さぁ引け」


「うわぁ。絶対ババ持ってるよ、剥不さん」


「沈黙」


 若干悩みつつも、一番左側のカードを取る。ジョーカーではない。


「俺も残り3枚」


「不服」


「はい、どーぞ」


 剥不さんが、二葉先輩からカードを引く。揃わずに4枚。チッと舌打ちが聞こえる。


「わー、私、またそろっちゃったよ」


「俺も揃いました」


「ぐむむ」


 鷺ノ宮と剥不さんがしかめっ面で、自分の手札をみる。


 第一ゲームは結局、おかか研同士の一騎打ちになった。部屋の隅に立てかけられたビンタくん一号から、バチバチと火花が散るのが見えた。


 不吉な予感しかしない。


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