43、これから鷺ノ宮くんはひどい目に合います。


「じゃあ、トランプでもやりましょっか」


 鷺ノ宮はカバンの中から、トランプを取り出した。俺の部屋に集まったのは、深夜12時過ぎ。普段ならもうとっくに寝ている時間だった。


「その消失の観察は、一体どうするんだ?」


「もちろんやるよ。起きるまでな」


「まさか俺たちも、巻き込むつもりじゃ……」


「当然だろ。二葉さんが消えた時に、俺たちが寝ていたら何の意味もないだろ。だからトランプで時間を潰すんだよ」


「……消えない可能性だってあるだろ」


「そうはならないよ。剥不部長の計算だと、6時間でも張っていれば、必ずその時はくる」


 鷺ノ宮は、自前のパジャマに着替えた剥不はがれずさんに視線を送った。髪を上げた剥不さんは、今度は長い髪を一つ結びにしている。


「鷺ノ宮助手の言う通り。一分か。あるいは一秒に満たないかもしれない。ただ、データによると、電磁波の影響は強い。消失は、今夜起こる可能性が高い」


「だろ? そう遅くまでかからないよ」


「それはそれで……嫌なんだけどな」


 正直、二葉先輩が消えて良い思いはしない。できれば何事もないのが、良いに決まっている。


 何だか嫌な予感が気がしてならないでいると、二葉先輩がポンポンと俺の肩を叩いてニッコリと笑った。


「大丈夫だよ。ちょっと消えるだけでしょ」


「……そうは言っても……」


「考えても仕方ないよ。来るもんは来るんだし。トランプやろうよ。せっかくなら楽しまないと」


 トランプをシャッフルする鷺ノ宮も、「そうっすね」と言ってうなずいた。


「何で遊びます?」


「大富豪!」


「あれは、ローカルルール多いですからなぁ。八切り、分かります?」


「知らない」


「ですよねー。じゃあ、順当にババ抜きにしましょう」


 鷺ノ宮が手際よく、カードを振り分ける。


 とりあえず初手、ババはなかった。


「配り終えた後で言うのも何ですが、せっかく何で、罰ゲームとかどうでしょう?」


「まぁ、別に良いけど」


「どんな罰ゲーム?」


 二葉先輩の質問に、鷺ノ宮はうーんと考え込んだ。


「緊張感あるやつにしましょうかね」


「お金とか、無理だよ。私、余裕ないし」


「そうだなぁ。じゃあ、いつもやってるルールにしましょうか」


 鷺ノ宮は何の気なしに言った。

 二葉先輩が不思議そうな顔で、首をひねった。


「何それ、どんなルール?」


「敗けたやつは、勝ったやつのほっぺにチューするんですよ」


 ……は?

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