最終話 My new family

父が結婚に賛成した事で、縁談えんだんは一気に現実味げんじつみびてきた。


実際、決断した後の父の行動は素早すばやかった。


式の日取りは、私が18歳の誕生日を迎える4ヶ月後に決まった。


父は紀尾井町きおいちょうにある蘭堂らんどうグループ系列けいれつホテルの一番広い披露宴ひろうえん会場を、あっという間に押さえると、母と相談しながら結婚式場の手配や、招待者の選定せんていをテキパキと進めていく。


私のあずかり知らないところで物事がどんどん決まっていくため、さながらジェットコースターに乗せられた気分である。


私の通う高校には生徒の結婚禁止という校則は無かった。


そのため私は卒業を待たずに、学生のまま彼と結婚する事になった。


両家の両親への挨拶あいさつ結納ゆいのう、引き出物の準備、結婚式のリハーサルなど、やるべき事は山のようにあった。


準備に明け暮れるうちに4ヶ月はあっという間に過ぎ、ついに結婚式当日を迎える。


その日、私が身に着けているのは、白のローブ・デコルテに白のオペラグローブである。


シルクのローブ・デコルテはもちろんの事、羊皮ようひなめして作られたオペラグローブも、肩丈かたたけ近くまでの長さがある特注品だ。


これは母が結婚式で身にまとったウェディングドレスである。


将来、娘が結婚する時のために母が大切に取っておいてくれたドレスだが、こんなに早く出番が来るとは、母も思わなかったようだ。


そして何と言っても、彼との結婚に一番尽力じんりょくしてくれたのは、間違いなく鷹飼美野里たかがいみのりだった。


新婦控室しんぷひかえしつおとずれた彼女を私は出迎える。


美野里みのり、ありがとう。今日の日を迎えられたのは、みんなあなたのおかげよ。」


「おめでとう、友梨佳ゆりか。ウェディングドレスがとても似合ってる。今日から私達は親友だけじゃなくて姉妹しまいだね。」


「そうね、何だか不思議な感じ・・・」


「さっき披露宴ひろうえんの会場を見てきたけど、とてつもなく広かったよ。あのホテルで一番広い会場だって。出席者が2000人以上だなんて、さすが蘭堂らんどう家だよね。」


披露宴ひろうえんは家の行事になってしまうので、ある程度は仕方がないと思っていたんだけど、父に聞いたら、これでもかなり人数をしぼったと言っていたわ。」


「そうなんだ・・・友梨佳ゆりか、緊張してる?」


「それはやっぱりね・・・でも想像してたよりは落ち着いているかな。それにしても本当に良かったのかしら?御門みかどさんを婿養子むこようしにしてしまって・・・」


蘭堂らんどう家の一人娘と結婚しようと言うんだもの、それくらいは当然だよ。それに兄さんはそういう事にこだわらない人だから全然大丈夫だって。」


その時、控室ひかえしつのドアがノックされる。


「新婦、準備はよろしいでしょうか?」


「はい、今参ります。」


「じゃあ頑張って。」


「ええ、行ってきます。・・・美野里みのり、あなたにブーケをトスするから受け取ってね。」


「分かった」


彼女は私と抱擁ほうようすると、控室ひかえしつから出て行った。


私は今日、彼のお嫁さんになる。


ここにいたるまで困難はあった。

間違いもした。

くやし涙を流した事もあった。


それでも最愛の伴侶はんりょと最高の友人を得た私は本当に幸運な人間だ。


恐れずに前を向いていこう。


未来は明るいと信じよう。


今日が私の旅立ちの日になるのだから。

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