第46話 Engagement

それから私と彼女はおどろくほど仲良くなった。


今まで相手の欠点しか見えてなかったのが、わだかまりが無くなった事で、相手の良い面が見えるようになる。


実際付き合ってみれば、鷹飼美野里たかがいみのりは実に聡明そうめいで信頼できる人間だった。


敵にすれば本当に手強てごわい敵だが、味方にすれば、これ以上頼りになる味方はいない。


今まで私の身近には取り巻きの友人は沢山たくさんいたが、時には耳の痛い忠告をしてくれるような、本当の意味での親友と呼べる存在は、彼女が初めてだった。


私たちは周囲を刺激しげきしないように、学校では今まで通りたがいの苗字みょうじで呼ぶ事にしたが、二人だけの時は名前で呼び合う関係である。


そして親友となった彼女は決断力にち、信じがたいほど行動的で積極的な人間でもあった。


私はそれを否応いやおうなく理解する事になる。


「こ、婚約!?」


「そう」


「私と御門みかどさんが?」


「そう」


「でも私達、付き合って間もないし、早過ぎないかな?」


「世の中には出会って半月で結婚する人だっているんだし、普通だよ。」


「私もいつかは結婚出来ればいいなとは思っていたけど・・・」


「兄さんは、ああ見えて結構女の子にモテるよ。本人は全然気付いてないけど。」


「そうなの?心配だわ。」


友梨佳ゆりかは、もう心が決まってるんでしょう?」


「それはそうだけど、御門みかどさんの気持ちもあるし・・・」


「じゃあ聞くけど、友梨佳ゆりかは兄さんを他の女に取られてもいいの?」


「それは絶対にいやよ。」


「そうでしょう?まあ私にまかせておいて、悪いようにはしないから。」


そして美野里みのりは、彼女にしか出来ないであろう方法で物事を進めて行く。


次の週末、美野里みのりに呼び出された私は、鷹飼たかがい家を訪れた。


「兄さん、女の方から告白させておいて、まさかプロポーズまで友梨佳ゆりかにさせるつもりではないでしょうね。」


美野里みのり!そんな直球なやり方なの!』と私は驚愕きょうがくしたが、ここまで来たら美野里みのりを信頼するしかない。


「・・・さっぱり意味が分からんのだが?」


「では分かりやすく言いましょう。兄さん、この場で友梨佳ゆりかにプロポーズして下さい。私が立会人たちあいにんになってあげます。」


「プ、プロポーズ!?」


「そう」


「俺が蘭堂らんどうさんに?」


「そう」


「でも俺達、付き合って間もないし、早過ぎないか?」


「世の中には出会って半月で結婚する人だっているんだし、普通ですよ。」


「俺もいつかはそうなるかもしれないとは思っていたけど、それにしたって妹の目の前で彼女にプロポーズするなんて話、聞いた事が無いぞ。大体、立会人たちあいにんって何だよ?」


「男は細かい事を気にしなくていいんです。」


「お前はいつも突然過ぎないか?こういう事は心の準備が要るんだ。」


「大丈夫、友梨佳ゆりかの方はすっかり心の準備が出来てますから。」


彼は助けを求める様に私の顔を見るが、合図があるまで絶対にしゃべるなと言われているため、目をせる事しか出来ない。


「フーン、プロポーズ出来ないんですか?・・・という事は兄さんは友梨佳ゆりかの事、遊びなんだ?」


「そうじゃない!俺の気持ちは真剣だ。」


「だったら問題無いじゃないですか。ちなみに友梨佳ゆりかは兄さんと結婚してもいいそうですよ。後は兄さんがプロポーズすれば万事ばんじ解決かいけつです。」


美野里みのりは彼が逃げ出せないように、ドアの前に立ちふさがっている。


彼女は無言になる事で、彼に返答をうながしていた。


ここが勝負所だ。


いたたまれないような沈黙の中、私は緊張感に負けて言葉を発しそうになる自分を、ひたすら押さえ付ける。


永遠にも思えた沈黙の後、彼は覚悟を決めたように口を開く。


蘭堂らんどうさん。あまりに急な話で指輪も用意できていないけど、俺の気持ちを伝えるよ。」


『来た!』


私はゴクリとつばを飲み込む。


蘭堂らんどうさん、俺の・・・俺のお嫁さんになって下さい!」


すかさず美野里みのりがウインクで合図を出し、私はようやく想いを伝える。


「はい、喜んでお受けします。友梨佳ゆりか御門みかどさんのお嫁さんにして下さい。」


こうして私たちの婚約は成立した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る