第45話 Tears

「頼む、美野里みのり・・・分かってくれ!」


そう言うと彼は深々ふかぶかと頭を下げた。


彼の目は涙でうるんでいた。


その姿を見た私は、居ても立っても居られず、その場に土下座する。


鷹飼たかがいさんお願い!私たちの事を認めて下さい!」


そのまま全員が言葉を失い、無言になる。


最初に沈黙ちんもくを破ったのは、鷹飼美野里たかがいみのりだった。


「プライドの高い蘭堂らんどうさんが、私にそこまでするなんて・・・そんなに兄さんの事が好きなんだ?」


「好きよ、世界で一番好き。」


「全く・・・バカップルそのものじゃない!」


「本当ね・・・自分でもそう思う。」


私の返答を聞いた彼女は眼を見開いて絶句した。


そして見る間に表情が変わった彼女はプッと吹き出すと、もう我慢できないといった様子で大笑いを始める。


相手を笑わせるつもりなど全く無かった私と彼は、予想外の展開に思わず顔を見合わせた。


しばらくして、ようやく笑いがおさまった彼女は、しみじみと感想を述べる。


「それにしても一人の女性からこんなに好いてもらえるなんて、兄さんは幸せ者かもね。」


それから彼女は真顔まがおになり、真っ直ぐ私を見つめながら語り掛ける。


蘭堂らんどうさん、前にあなたでは兄さんを幸せに出来ないと言った事、訂正ていせいさせてもらう。今のあなたなら兄さんを幸せに出来ます。」


鷹飼たかがいさん、あっ、ありがとう・・・」


美野里みのりでいいよ。私も蘭堂らんどうさんの事、友梨佳ゆりかって呼ぶから。」


それを聞いた私は、我慢出来ずにとうとう大泣きしてしまう。


彼女の方は困ったように頭をかきながらつぶやく。


「あぁもう・・・何で泣くかなぁ?こっちもつられちゃうじゃない。」


彼女の目にも涙が光っている。


「だって私、嬉しくて・・・」


流れ落ちる涙と共に、2人の間にあったわだかまりがゆっくりとけていった。

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