第33話 A promise to go out on a date

思いがけない脱出劇だっしゅつげきから一週間がった。


あの日、夜になってから恐る恐る電話したところ、彼は全く気にする様子も見せず、笑って許してくれた。


その言葉に一安心した私だが、本当は怒っているのではないかと思うと、自分からはどうにも連絡しづらくなってしまう。


結局彼とはそれ以来、連絡を取れないでいた。


『このままではいけない。』


私は今日もスマホとにらめっこしながら、電話をしようか迷っていた。


そんな時、私が持っていたスマートフォンから着信音が鳴り響く。


「!」


おどろいた私はスマホを取り落としそうになる。


スマートフォンの画面に表示されたのは、彼の名前だった。


私は震える手で、あわてて電話に出る。


「も、もしもし蘭堂らんどうです。」


御門みかどです。今、話をしても大丈夫?」


「大丈夫です。」


「先週から渋谷のBunkamuraでミュシャ展が開かれているんだけど、一緒に行かないか?」


「ブンカムラって、オーチャードホールがある・・・」


「そう、そこ。」


「オーチャードホールなら何回か行った事があります。」


私は毎年大晦日おおみそかにオーチャードホールで開催かいさいされるガラコンサートに、両親に連れられて行った事があった。


「どうする?」


「行ってみたいです。いつにしますか?」


「次の日曜日はどうだろう?」


「日曜日なら予定は無いです。」


「良かった。じゃあ10時30分にハチ公口の交番前で待ち合わせをしよう。」


「分かりました。」


「知ってるとは思うけど、休日のハチ公前広場は人出が物凄ものすごいから覚悟してくれ。」


「気を付けます。」


電話を切って落ち着きを取り戻すと共に、じわじわと喜びがき上がって来る。


考えてみれば、彼の方から誘ってくれたのは、これが初めてだ。


好きな異性から誘いを受ける事が、これほど嬉しいものとは思わなかった。


何より、勇気の無い私に手を差し伸べてくれた彼の気遣きづかいが嬉しかった。


この喜びを誰かに伝えたかった私は、日曜日のデートを母に報告するために、階下かいかへと降りて行った。

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