第31話 The house where time stopped

初めておとずれた蘭堂家らんどうけは、御門みかどにとっておどろきの連続だった。


自分の家が重要文化財に指定される事を心配する家庭なんて、そう滅多めったにありはしないだろう。


これはもう豪邸ごうていなどというレベルをはるかに超えていた。


御門みかど友梨佳ゆりかに庭園を案内してもらいながら感想を述べる。


「この庭も手入れが行き届いているね。」


「昔は専属せんぞく庭師にわしがいたようですけど、今は月に2回ほど庭師にわしに入ってもらう程度なんですよ。」


「確かにこれはプロの仕事だ・・・」


御門みかどは感心したように庭を見回す。


友梨佳ゆりかと共に邸内ていないもどった御門みかどは、二階へと案内される。


「部屋数も相当あるね。」


「ええ、家族3人で使うには家が広すぎて、使っていない部屋の方が多いんです。」


「それは何とも贅沢ぜいたくな話だな。」


「料理は主に母が作っているのですが、掃除については、母一人ではとても無理なので、お手伝いの方に来てもらっています。」


「さっき応接室にティーセットを持ってきてくれた人?」


「そうです。もう20年も我が家に勤めてくれているんですよ。」


「それはベテランだね。」


「我が家の家事を手伝ってくれているのは、今はその人を含めて2人です。そのほかに運転手が2名おりますが、昔はもっとたくさんの人が蘭堂家らんどうけで働いていたんだそうです。先代の頃までは、執事しつじが居たそうですよ。」


「昔は一般家庭でも少し余裕がある家なら、お手伝いさんがいるのが普通だったからね。蘭堂家らんどうけであれば執事しつじがいても不思議ではないよ。」


2人は話をしながら二階の角部屋の前に到着した。


友梨佳ゆりか神妙しんみょう面持おももちで御門みかどに告げる。


「ここが私の部屋です。」


友梨佳ゆりか自室じしつは東側と南側の両方に窓があるおかげで、とても明るかった。


開け放たれた窓からは心地よい風が入って来る。


応接室もそうだったが、部屋の天井は高く、広々としている。


彼女の部屋に勉強机は無く、その代わり大きなテーブルが置かれていた。


そしてベッドは、今ではほとんど見かける事のない真鍮しんちゅう製だ。


蘭堂家らんどうけ調度品ちょうどひんは、どれもこれも歴史を感じさせるものばかりだ。


そのため一見すると女子高生の部屋とはとても思えないが、友梨佳ゆりかの自室には何とも言えない落ち着きと居心地いごこちの良さがそなわっていた。


蘭堂家らんどうけは、そこだけが時が止まった世界であった。


そして友梨佳ゆりかは、時が止まった世界の住人じゅうにんだったのだ。


御門みかどは彼女について、どこか浮世うきよばなれしたところがある人だと思っていたが、その理由を今になって理解する。


「今日は私の母に会って頂き、ありがとうございました。」


「俺の方もご家族に挨拶あいさつしたかったので、ちょうど良かったよ。」


御門みかどは窓に近付くと、外の景色けしきながめる。


「二階からだと庭の全景ぜんけいが良く分かるな。これはいいながめだ。」


「季節や天気、時間によって庭の表情が刻々と変わるので、見飽きる事がありませんわ。特に雪が降ると景色けしき一変いっぺんして、とても綺麗きれいなんですよ。」


「それは一度見てみたいな。」


「いつでも歓迎かんげいしますわ。」


友梨佳ゆりか御門みかどかたわらにい、一緒いっしょになって外の景色けしきを楽しんでいた。


そんな2人に、想定外そうていがいの事態が発生する。

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