第28話 Picking him up

東京都大田おおた区・田園調布でんえんちょうふ


東急東横線とうきゅうとうよこせん田園調布でんえんちょうふ駅から少し離れた場所にある広大な敷地しきち蘭堂家らんどうけ邸宅ていたくはある。


都内屈指とないくっしの高級住宅街である田園調布でんえんちょうふの中でも、ひときわ目立つ存在だ。


待ち合わせ時間の前に、御門みかど田園調布でんえんちょうふ駅前の指定された場所で待っていると、見覚えのあるダイムラー社製の白い高級乗用車が、目の前にピタリと止まる。


車の後部座席こうぶざせきに座っていたのは、蘭堂友梨佳らんどうゆりかだった。


「お待たせしました。」


後部座席こうぶざせきの窓を開けた友梨佳ゆりか御門みかど挨拶あいさつする。


彼女は運転手が後席こうせきのドアを開けてくれるのをごく自然に待ち、ドアが開けられてから優雅ゆうがに降り立った。


こういった所作しょさは、さすがお嬢様だ。


タクシーの自動ドアしか経験が無い御門みかどには、到底とうてい出来ない芸当である。


「参りましょう。」


御門みかどは慣れないながらも運転手が開けたドアから、後部座席こうぶざせきに乗り込んだ。


再び後部座席こうぶざせきに戻った友梨佳ゆりかと共に、御門みかど蘭堂家らんどうけへ向かう。


田園調布でんえんちょうふの駅前から蘭堂家らんどうけまで、車なら5分とかからない。


車は蘭堂家らんどうけ間近まぢかまで来たものの、高いへいに囲まれているため、外から中の様子をうかがう事は出来ない。


蘭堂らんどう」と書かれた木製もくせい表札ひょうさつのある立派な正門前に車が一時停止すると同時に、背の高い鉄の門扉もんぴが音も無く開くと、車はそのまま蘭堂家らんどうけ敷地内しきちないに進入する。


門の向こうは別世界だった。

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