第17話 My first date

『どうしよう・・・』


だれにも相談そうだん出来ない私は、一人で悩んでいた。


彼の連絡先れんらくさきを手に入れたものの、異性いせいと付き合った経験けいけんの無い私には、その先をどう進めればいいのか分からない。


自分から動かなければ何も始まらない事は理解しているが、具体的に何をすべきか、結論が出ないでいた。


付き合っている訳ではないのだから、デートという名目めいもくで彼をさそう事は出来ない。


彼をさそい出すには、なんらかの口実こうじつが必要だった。


『何か良い方法はないだろうか?』


私は彼が興味きょうみを持ちそうなイベントを一生懸命いっしょうけんめいに考える。


御門みかどさんは大学で日本画にほんが専攻せんこうしていると聞いたけど・・・そうだ!』


私は近くで日本画にほんが美術展びじゅつてんが行われていないかを調べ始める。


すると都合つごうの良い事に、きたまる公園にある東京国立近代美術館とうきょうこくりつきんだいびじゅつかんで、明治から昭和初期にかけての日本画にほんが企画展きかくてん開催かいさいされている事が分かった。


『これだ!』


さらに調べてみると、東京国立近代美術館とうきょうこくりつきんだいびじゅつかんの中には著名ちょめいなフレンチシェフがオーナーシェフをつとめる「L'ART ET TAKUMI」が営業している事も分かった。


これなら企画展きかくてんの帰りに、この前の昼食ちゅうしょくのおれいという名目めいもくで、自然に食事へさそう事が出来る。


もう店の予約よやくをしてあると言えば、まさか彼もことわりはしないだろう。


食事の後はどうしよう?


まだ帰りたくないとワガママを言ったら、彼は付き合ってくれるだろうか?


そんな事を想像しながら、私は胸をときめかせる。


作戦は決まった。


私は彼に電話するためにスマートフォンを取り出したものの、いざとなると緊張きんちょうしてしまい、なかなか通話つうわボタンを押す事が出来ない。


このまま電話しても、しどろもどろになってしまいそうだ。


私は一旦スマートフォンをつくえの上に置くと、メモ帳を取り出して、言わなければならない事を箇条書かじょうがきにする。


こうすれば緊張きんちょうで話したい事が飛んでしまっても大丈夫だいじょうぶだ。


開いたメモ帳を目の前に置くと、私は大きく深呼吸しんこきゅうをしてから通話つうわボタンを押した。


呼び出し音が鳴るのが永遠えいえんの時間のように思える。

私の緊張きんちょうはピークにたっしていた。


「もしもし」


電話をしたのだから、彼が出るのは当たり前なのだが、それでも私の心臓は飛び出しそうになる。


「あ、あの、友梨佳ゆりかです。」


自分の声が裏返うらがえっているのが自分でも分かる。


蘭堂らんどうさんか、どうしたの?」


彼の声はいつも通りおだやかだった。

少し落ち着きを取り戻した私は用件ようけんを切り出す。


御門みかどさん、次の週末はおいそがしいですか?」


「土曜日はいそがしいけど、日曜日だったら予定は無いよ。」


「それならば今度の日曜日に、東京国立近代美術館とうきょうこくりつきんだいびじゅつかん日本画にほんが企画展きかくてんがあるのですが、もしよろしければ一緒いっしょに行きませんか?」


「知ってるよ、それ。ちょうど行きたいと思っていたんだ。」


「本当ですか!?」


すっかり自信を取り戻した私は、トントン拍子びょうしに待ち合わせ場所と時間を決めると電話を切った。


『やった!上手うまくいった!』


私は興奮こうふんのあまり、スマートフォンをにぎりしめながらピョンピョンねる。


考えてみれば、今まで彼とは偶然にしか出会っていないため、事前の準備を行う事が全く出来なかった。


しかし今回は準備をする時間が十分にある。


私は元々もともと外出時がいしゅつじの身だしなみに手を抜くタイプではなかったが、今回は今までとは気合きあいの入り方が違う。


店の予約よやくを始めとして、着ていく服や持ち物の準備など、週末までにやるべき事はたくさんあった。


入念にゅうねんに準備して、彼に最高の自分を見てもらうのだ。


これは私の記念きねんすべき初デートなのだから。

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