第12話 Ristorante di Napoletana Ⅰ

『昼ご飯くらいで、あんなに喜ぶなんて・・・よっぽどおなかいていたのだろうか?』


そう考えた御門みかどはファーストフード店などではなく、ちゃんとした食事が出来できる店に彼女を連れて行く事にする。


画材屋を出た2人は、更に四ツ谷よつや方向に歩いて、四谷三丁目駅よつやさんちょうめえきの近くにある「Ristorante di Napoletana」に入った。


ディナーはコースで1万円近くするため、学生には贅沢ぜいたく過ぎる店だが、ランチタイムであれば2千円らずのリーズナブルな値段で美味おいしいイタリアンを堪能たんのうする事が出来る。


店の雰囲気ふんいきも良く、画材屋にも近いため、御門みかどは時々この店を利用していた。


元々もともとこの店を御門みかど紹介しょうかいしたのは妹の美野里みのりだ。


もっとも美野里みのり一緒いっしょに行った時には、紹介料しょうかいりょうしょうして、強制的きょうせいてきにランチをおごらされる羽目はめになったのだが、実際じっさい美味おいしい店だったので仕方がない。


ランチタイムとしてはおそい時間に入店にゅうてんしたため、店内てんない比較的ひかくてきいていた。


蘭堂らんどうさん、何か食べたいものある?」


「おまかせします。」


「分かった。」


御門みかどが軽く右手を上げると、ウェイターがスッと近づいて来る。


「シェフのおすすめランチを2つお願いします。」


「お飲み物は?」


「スパークリングウォーターで」


「かしこまりました。」


ウェイターは注文ちゅうもんを受け取ると、すぐさま奥の厨房ちゅうぼうへともどっていく。


シェフのおすすめランチは日替ひがわりメニューになるため、何が出てくるかは分からない。


ただしアンティパスト(前菜)、プリモ・ピアット(パスタやピッツァ、リゾットなどのメイン料理)、カフェドルチェ(デザート)のコースが2千円以下で提供ていきょうされるため、ランチ客の8割が注文ちゅうもんする人気メニューだ。


飲み物はワイン、スパークリングウォーター、ミネラルウォーターの中から好きなものを選ぶ事が出来る。


シェフのおすすめランチで不味まずい料理が出て来た事が無いため、特に食べたいものが決まっていない人にとっては最良さいりょう選択せんたくと言える。


2人はアンティパストをちながら話を続ける。


「そうか、蘭堂らんどうさんは高校生なんだ。大人っぽいからそうは見えなかったよ。」


彼女が年齢ねんれい以上に大人びて見える理由は、彼女が持っているバッグにも起因きいんしている。


彼女のバッグはフランスの超高級ブランドのバッグであり、普通の女子高生が手軽てがるに持ち歩ける代物しろものではない。


ただそれは若い女性に人気のブランドではなく、どちらかと言うと中高年の女性にこのまれるブランドのバックだ。


バッグのデザインも地味で落ち着いている。


素敵すてきなバッグだね。」


「これ、母のおふるなんです。いいバッグだから使いなさいって。」


「シックなデザインが何とも魅力的みりょくてきだ。バッグを見ただけでも、お母さんの趣味しゅみの良さが分かるよ。」


「ありがとうございます。そうだ、今度私の家にいらっしゃいませんか?母に紹介します。」


「ハハハ、でも俺、蘭堂らんどうさんの家知らないからな。」


ついにチャンスは到来とうらいした。

友梨佳ゆりかは一気にたたみかける。


「教えます!だからミカドさんの連絡先れんらくさきも教えてくれませんか?」


連絡先れんらくさき交換こうかんしたいという友梨佳ゆりか提案ていあんを、御門みかどこころよく受け入れた。

友梨佳ゆりかの作戦勝ちである。


御門みかどが教えてくれたのはメッセンジャーアプリのIDと携帯番号だけだったが、友梨佳ゆりかの方はそれらに加えて、自宅の電話番号や住所まで彼に教える。


友梨佳ゆりかは教えてもらった連絡先れんらくさきをすぐさま手帳てちょうめた。

もしスマホが故障こしょうして、登録とうろくした連絡先れんらくさきが消えてしまったら泣くに泣けない事態じたいだ。


「ミカドさん、スマートフォンにアドレスを登録とうろくしたいので、下の名前を教えて頂けませんか?」


われながら上手うま口実こうじつを思い付いたと友梨佳ゆりかは思う。

このタイミングなら自然にフルネームを聞く事が出来る。


「下の名前?ああ、そうか。御門みかど苗字みょうじではなくて名前なんだ。俺の名前は鷹飼御門たかがいみかどたかうと書いて鷹飼たかがい御門みかど土御門つちみかど御門みかどだよ。」


鷹飼たかがい・・・御門みかど


友梨佳ゆりかはその苗字みょうじに聞き覚えがあった。

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