第13話 Ristorante di Napoletana Ⅱ

鷹飼たかがい・・・御門みかど


そのめずらしい苗字みょうじには聞き覚えがあった。


友梨佳ゆりか生意気なまいき目障めざわりなクラスメイト、鷹飼美野里たかがいみのりの事を思い出す。


『まさか・・・』


しかし友梨佳ゆりか鷹飼美野里たかがいみのりの変態兄貴と、目の前にいる御門みかど同一人物どういつじんぶつとはどうしても思えなかった。


「どうかした?」


「いえ、何でもありませんわ。」


友梨佳ゆりかは心の中に浮かんだ小さな疑念ぎねんをすぐさま否定ひていする。


ほどなくしてウェイターがもどって来た。


アンティパストをテーブルに置いたウェイターは、次にワイングラスを置き、目の前でせんいたスパークリングウォーターをワイングラスにそそぐ。


何とか御門みかど連絡先れんらくさきを手に入れる事が出来たので、友梨佳ゆりかにとって本日最大のミッションはクリアしている。


しかし彼女はもう一つだけ、どうしても確かめておきたい事があった。


友梨佳ゆりか内心ないしんでは死ぬほどドキドキしながら、表面上はあくまでさりげなく、世間話せけんばなしの一つと言った口調くちょう御門みかど質問しつもんする。


御門みかどさんは付き合っている人とかいらっしゃるんですか?」


『大丈夫、何とか表情ひょうじょうは取りつくろえているはず・・・』


友梨佳ゆりかは絶対に真剣な表情ひょうじょうにならないように、細心さいしんの注意を払う。


「彼女がいるかって事?残念ながらいないんだ。美大受験は女の子と付き合いながら出来る程、甘いものじゃないし、入学出来たら出来たで課題に追われて、そんな余裕無しだよ。彼女がいる同級生もいるけど、どうやって知り合ったのか聞きたい位さ。」


『そうか、付き合っている人いないんだ・・・』


友梨佳ゆりかは顔がにやけそうになるのを必死でおさえる。


「そう言えば、蘭堂らんどうさんはいるの?彼氏」


「いいえ、お付き合いしている男性はいません。」


「そうか、可愛いのに意外だな・・・」


『可愛いのに!』


御門みかどが発した何気なにげない一言が友梨佳ゆりかの中でリフレインし、彼女を有頂天うちょうてんにさせる。


友梨佳ゆりか自身、容姿ようしにはそれなりに自信を持っている。


また家族や取り巻きの友人から容姿ようし称賛しょうさんされる機会は数多くあり、そういう事は言われ慣れているはずだった。


もちろん称賛しょうさんされる事はうれしくない訳では無かったが、御門みかどの一言は、それらとはまるで別次元べつじげんの喜びを彼女に与えた。


彼女の全身ぜんしん幸福感こうふくかんたされる。


「そ、そんな事ありませんわ・・・」


彼女はそう言うのがやっとだった。


「まあ俺も、もうちょっとカッコよかったらモテたかもしれないけどね。」


「そんな事ありません!御門みかどさんはカッコイイです!」


「あ、ありがとう・・・」


友梨佳ゆりかがあまりにもいきお否定ひていするので、御門みかどは少しびっくりする。


プリモ・ピアットがはこばれてきた。

今日のメニューはナスと魚貝ぎょかいのパスタだ。


ディナーとちがってランチコースの場合、セコンド・ピアットは出てこない。

その代わり、プリモ・ピアットのりょうが多めになっていた。


2人は食事を楽しみながら、色々な話をする。


御門みかど友梨佳ゆりかと会話をする内に、彼女は自分で話す事も、聞き役に回る事も両方出来る、とてもかしこい女性である事を理解する。


「さて、そろそろ店を出ようか?」


友梨佳ゆりかがブルーベリーのジェラートを食べ終わるのを見計みはからって、御門みかどは彼女に提案ていあんする。


友梨佳ゆりかにとって、幸福な時間が終わろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る