雨上がりに少年はなにを知る
柊 吉野
第1話
朝、目が覚めると雨が降っている。そんなことが時々ある。
僕は雨が嫌いだ。
起きたときから僕の心を少し暗くする。
家から出ると重たくて湿った空気が僕を包む。
ザァーザァーと地面を打ちつける雨の音が聞こえる。今から学校に行くと思うと足が重たくなる。雨が傘にあたる。傘を差しているのに、靴を靴下を雨が濡らす。
いつもと違った雨の日の通学路を僕は歩く。
いつもと違う匂い、景色その全てが違う世界に来てしまったかのような、そんな気にさせる。
雨の日の授業はいつもより静かだ。少し弱まった雨の音と先生の声だけが教室に響く。こんな空間が僕は好きだったりする。
ふと窓の外を見る。
「雨、雨、雨、雨、雨」
どこを見ても雨が降っている。当たり前のことがそこにある。
「なぜ雨が降るのか?」
そんなことを聞かれても詳しく説明することなんてできない。僕にとってただ当たり前のことで、それ以上でもそれ以下でもない。
当たり前の日常に僕が理解できていることは実はなかったりするのかもしれない。紙がどうやってできているのか、蛇口をひねっただけで出てくる水道水がどうやってできているのか僕は知らない。
世の中は知らないことだらけだ。
僕の世界はずっとずっと小さくて、
この世界はずっとずっと大きい。
朝、目が覚めると雲一つない青空が広がっている。そんなことが時々ある。
僕は快晴が嫌いだ。
この青空は僕にとって明るすぎて、熱すぎる。だけど僕の心も少し明るくする。
家から出るとチリチリと太陽が僕を照りつける。
ミーンミーンとセミの鳴き声が聞こえる。もうすぐ夏休みだけど、今日は学校だ。いつもよりまぶしい僕の一日が始まる。汗が滴り、シャツを濡らす。この暑さにイライラしながら僕は歩く。
するとそこへ風が吹く。夏の風はとても気持ちいい。目をとじると緑の野原の上に立ち、風に吹かれる僕がいる。そんな気がする。とても爽やかな気分になって世界が変わる。
晴れの日の授業は騒がしい。セミの鳴き声、チョークが黒板をたたく音、扇風機の音、クラスメイトが下じきをあおぐ音、いろんな音が聞こえる。
そんな普通の日常だ。
「普通ってなんだろう?」
僕はふと考える。
僕は毎日普通においしいごはんをお腹いっぱい食べられる。食べ物に感謝しなさいと言われることがある。僕は感謝しているつもりだし、世の中には満足にごはんが食べられない人がいることを知っている。
だけど、それは同情心や分かった気になっているだけなのかもしれない。真にその人の気持ちは知ることができないのだと思う。僕は僕でしかなく、君は君でしかない。その人の尺度によって普通は変化し続ける。数十年前の普通は今の普通ではない。普通という言葉に意味はないのかもしれない。
僕は僕の世界を知っていて、
外の世界をほとんど知らない。
「ピピピピピ」
目覚ましの音が僕を起こす。
今日も僕の一日が始まる。
今日一日の色をうかがうように、僕はゆっくりドアを開ける。
今日は小雨が降っている。また今度は違った世界が見えてくる。小雨はどこか気持ちいい。
僕はいつもより軽い足取りで学校へ向かう。
起きたときも学校でも雨はずっと降っている。
授業が終わる頃には雨が上がっていた。今日は一日で二つの色が見える。運がいい。
そして、僕は帰路につく。
途中、僕は顔を上げた。すると雲の切れ目から青空が顔を出している。その空に虹がかかる。その景色は幻想的で、とても美しい。
この世界には僕には想像もつかないことがたくさんある。
僕はまだこの街のちっぽけな世界に住んでいる。だけど僕は
「この世界が広いことを知っている」
「ゲコッ」
その時、蛙が池に飛び込んだ。
雨上がりに少年はなにを知る 柊 吉野 @milnano
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