第73話 破壊神ちゃんは妹である
ゆうきちゃんの話になったとたん、パパもママも涙ぐむ。
二人にはまだ、ゆうきちゃんへの想いが根深く残っていたんだ。
それは我が子のことをどこまでも、いつまでも心配する親の心。
ボクはパパとママのそんな深い愛情に、少しでも報いたい。
「……あのね、パパ、ママ。もし、もしだよ? 今ここでゆうきちゃんとお話しできるって言ったら、どうする?」
『えっ? ちょっ、
ゆうきちゃんの抗議の声が頭の中を駆け巡る。
ボクはそれを聞き流して、パパとママの返事を待った。
「……ゆうきちゃん、それってどういう?」
ママの、まだ涙の光る目がボクに焦点を合わせた。
ボクは右手を胸に当てて、ゆっくりと話す。
「実はね、ゆうきちゃんの魂が、まだボクの中に生きてるんだよ。そして話もできるんだ。
もちろん姿形はボクのままだけど、中身だけボクとゆうきちゃんが交代して、それでパパとママとでお話しできる」
ボクはそう伝えると。今度はゆうきちゃんと話す。
『そんなわけだから、ゆうきちゃん。出てきてお話ししなよ』
『そんなこと言われたって……、それに今の
『そんなことないよ。財部家の長女はやっぱりゆうきちゃん、君だから。それじゃ交代するから、あとよろしくね』
ボクはそう言ってほとんど丸投げに近い状態で、三人の会談をセッティングした。
§
無理矢理に開いたパパとママとゆうきちゃんの家族水入らず。
ボクはゆうきちゃんの裏に隠れてこっそりと、その様子に聞き耳を立てるでもなく、無関心を決めるでもなく過ごす。
どうやらパパとママは入れ替わったゆうきちゃんのことをすぐに認識できたようだった。
すると、ゆうきちゃんから話しかけてきた。なんだか涙声っぽい?
『ねぇ優樹ぃ、もうわたしだめだぁ。涙が溢れて止まらないよぉ』
その言葉が気になって改めて視界にパパとママを捉えると、二人とも泣きはらしてるのが見えてきた。もちろんゆうきちゃんも涙に咽せているから、今見える視界も涙で揺らいでいる。
ボクがパパとママに受け入れてもらえたときと同じような光景が、そこには広がっていた。それを見て、多分これはママがまた見抜いたんだろうとボクは勘付いた。
『ゆうきちゃん、ママとパパは一発で君のことをゆうきちゃんだって見抜いたでしょ?』
『うん、ほんの一言喋っただけだよ。優樹が物真似してるくらいにしか見てくれないって思ってたのに。ママはどうして分かっちゃうの?』
『そうなんだよ。ママは分かるんだって。
ボクもね、一度はこの世界からいないことになって、学校の先生も、誰も彼もボクのことを知らないって状況になったことがあるんだけど。そんなときでもね、ママだけは違った。ママはボクがゆうきだって声だけで見抜いたよ。
その時、ボクは男の子の姿だったし、ゆうきちゃんは亡くなってから15年も経っていたはずなのにね』
『なにそれすごい、凄すぎるよママ』
しばらく三人とも泣くばかりで言葉の出ない様子だったけど、そのうち落ち着きを取り戻したのか、ゆうきちゃんの身の上話が再び始まってぽつぽつと続く。内容はボクの記憶とそう変わりはしないのだけど、でもパパもママも真剣に聞き入っていた。
そんな中、パパの一言が耳に入ってくる。
「……さて困ったねえ。二人ともゆうきでは区別が付かないねえ」
「そうね。呼び方を考えないと」
さっきから黙って様子を見てるけど、いつの間にかボクの事はパパとママにも妹扱いで決まってしまったみたいだ。
別にボクとしてはそこら辺にこだわりはないし、ゆうきちゃんが先にいたのは事実だから、彼女が姉扱いになるのは一向に構わないのだけど。
でも呼び名には困るよね。
と、そこで思い出したことがあったので、それをゆうきちゃんに伝えてみた。
『ゆうきちゃん、ゆうきちゃん』
『なにかな?』
『ボクたちの呼び名のことなんだけど。ゆうきちゃんがゆうきお姉ちゃんで、ボクの事はゆうちゃんって呼んでもらったらどうかな?』
『わたしの方がすごく長いよね、それ』
『だめかな?』
そして、ボクの提案がパパとママにも伝わる。『ゆうきお姉ちゃん』というのはやっぱり少々長いみたいで、どうしようかと三人で話し合いが続いてる。そのまま話し合いの流れを見守っていたらママから提案があって、ゆうきちゃんのことは『ゆう
『じゃぁ、決まりね。あなたが『ゆうちゃん』で、わたしは『ゆう姉』ってことで。
それで、何かパパとママに今伝えておきたいことはない?』
『あるよ。代わってもらって良いかな?』
『構わないよ』
「もう、ゆうちゃんに代わるね」
そう聞こえたと思ったら、今まで見えていたパパとママの姿が鮮明なものに切り替わった。
「ただいま、パパ、ママ」
「ゆうちゃんの方?」
ママの目が軽く驚いている。
「うん、そうだよママ」
ボクはそう微笑んで返した。
「なんだかまだ不思議な感覚だねえ」
パパが腕を組んで唸ってる。
「さっきのゆう姉とパパママの話は、ボクにも聞こえてたから話は分かってるつもり。ゆう姉のことも受け入れてくれて、本当にありがとう」
そう言って、頭を下げた。
「なあに? 畏まって。大丈夫よ、どちらもゆうきちゃんだもの」
「ゆうき、じゃなかった、ゆうちゃんの事でパパももう慣れちゃってるねえ。
大丈夫、ゆう姉も僕たちのれっきとした家族だからねえ」
事もなげにそう言ってのける二人。
やっぱりパパとママは優しくてすごい。
この二人の子供でいられることに、僕は感謝を新たにする。
「それでね、パパ、ママ。ボクの時は姿も少し変えることにするよ」
「変えるって……今の姿が可愛くて良いのに」
ママが悲しそうな顔を見せる。
「そんなに大きくは変えるつもりはないよ。ちょっと髪型に変化を付けるだけ」
ボクはそう言って、頭のてっぺんに後れ毛を浮かせることにした。
いわゆるアホ毛ってものだ。
「あ、髪がちょっと立ったわね」
立った髪を指で軽く撫でる。
「こうやって一束髪を浮かせるから、これで見分けてよ。
……というのは良いんだけど、ちょっと鏡で確認させて?」
ボクはそう言って戸棚まで行って手鏡を出して覗き込む。
大体思った通りの長さと形でピコンと一束髪が立ち上がっていた。
『わたしの時はちゃんと引っ込めるの忘れないでね? 恥ずかしいから』
ゆう姉からすかさずツッコまれた。
こうして無事に、ゆう姉も財部家の一員として生活していけることになった。
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