後日談 エピローグのそのあとで
第7章 縁、継がれゆく
第75話 はじまる鼓動
破壊神と生成神が学校で大立ち回りを演じてから10年半後、わたしとゆうちゃんが26歳の春。
ゆうちゃんは大学病院で2年間の研修医を終えて、この4月から小児科の医師になった。それと並行して、博士を取るために引き続き勉強を続けている。
高校一年生の12月、家族の前で宣言した彼女の目標がある。それを現実のものとするために、彼女は本当に頑張っている。頑張りすぎて少し心配になることもあるけれど、わたしの自慢の妹だ。
一方の司くんは工学部の大学院に進んで、2年前に就職。今は誰もが知ってる製造業の大企業で宇宙部門に勤めていて、彼の小さな頃からの夢だった、宇宙の仕事に携わるようになった。
そして、ゆうちゃんと司くんは大方の予想通り結婚……というか入籍して、晴れて一緒に暮らし始めた。結婚式なしで入籍をしてしまったのは姉であるわたしにも予想外だったけど、ゆうちゃんの普段の忙しさを見るに付け、仕方がないのかなとも思える。
どうかすると朝から夜まで病院に詰めっぱなしで、いつ休んでるの? ってくらいのハードワーク。いくら若くて神様パワーがあるからと言っても限度があるよと、わたしも彼女に注意したことはあったのだけれど、あんまり効果がなくて。
そうこうするうち深夜の病院に、心配した司くんが現れたときはさすがに驚いた。
それ以来病院の同僚さんがゆうちゃんに気を遣って定時で帰るように仕向けていたので、多少はまともな生活に戻っていたようだけど。
そして研修医の期間が終わった直後、二人は結婚式も挙げずに入籍した。
でも司くんとの約束で、同居を始めたら結婚式の準備を始めることになった。その時の彼曰く。
「放っておいたらいつまで経ってもやらなくて済ませちゃいそうだからね。それに式が目的というよりも、優樹のお父さんお母さんに申し訳が立たないよ。
女の子一生で一番の晴れ舞台なんだから、素敵なところを見せてご両親を安心させてあげないとだめだよ」
それは全くの正論で、わたしもゆうちゃんもぐうの音も出なかった。基本的にはゆうちゃんのやる気次第だとは言うものの、わたしももっと強く言っておくべきだったと反省しきり。
どう見ても彼の方がいろいろとしっかりしていて、わたしもゆうちゃんも女性としての経験値が足りてない。わたしの気がつく範囲でいろいろと彼女に助言をしたりはしているのだけどね。
そんな司くんとの関係だけれど、ゆうちゃんは彼と本当に上手くやっていると思う。お互いのことを自然に助け合う関係で、端から見ていても安心感とか安定感とかに溢れてる。
ゆうちゃんが時々話をする女性のお友達との会話でも、彼とのそういう関係は大層羨ましがられた。
最近のことはこんなところだけど、もう少し、あれからのことも伝えておこうかな。
§
16歳の誕生日が過ぎて、高校一年生三学期のお話。
わたしとゆうちゃんは一つ身体の中で共存しながら、時々入れ替わっては生活を楽しんでいた。その延長で司くんとも二人入れ替わりつつお付き合いをしていたのだけれど、高校二年になる直前のこと。彼がこんなことを言った。
「あのさ、今僕の目の前にいる君って、優樹じゃないよね?」
その言葉を聞いて、わたしもゆうちゃんもものすごく驚いた。わたしの方がパニックになりかかって、慌ててゆうちゃんと交代したほどだ。もちろんゆうちゃんがその場ですぐ彼に謝ってくれて、それから今の状況について説明をしたので事なきを得たのだけれど、それからしばらくは針の筵に乗っている気分だった。
わたしの存在自体は以前の大事件で彼にも認識されていたので、それについては説明が要らなかったのだけど、どうしてわたしが未だに優樹の身体の中にいるのかの説明には少し苦慮することになった。最終的には納得してくれて、彼とゆうちゃんの関係にヒビが入ることもなかったのだけれど。
それ以来、彼を騙すようなことはしないと三人で約束して、無断でゆうちゃんと入れ替わることは慎むようになった。その後、彼にとってのわたしの存在は恋人の双子のお姉ちゃんという立場に落ち着いたみたいで、彼とゆうちゃんの関係を見守ってくれる身近な理解者として認められた。
常に監視があるみたいで少々落ち着かないけどね。なんて彼は笑ってくれた一方で、そんな誰にも言えない秘密のある彼女というのも特別感があって良いものらしい。面倒くさいだけなんじゃないかって思うのだけど、男心はよく分からない。
そんな感じで過ごした高校時代、ゆうちゃんは無事に志望した大学の医学部に現役合格。司くんも同じ大学の工学部に入学して新たな門出を迎えた。
§
そして司くんとの結婚生活が3年目に入る春、結婚式を挙げてから1年弱。わたしの下に玲亜ちゃんからの念話が届いた。
『ゆう姉、どうやらあなたの身体が形作られつつあるみたいよ?』
玲亜ちゃんの念話はいつも突然やって来る。今回はゆうちゃんが仕事中で忙しい時間帯、忙しなく動き回っているのでめまぐるしく眼前の風景が移り変わる中で話しかけてきた。このままじゃ落ち着かないので、わたしは視界へのリンクを切って念話に専念することにした。
『玲亜ちゃん、お久しぶり。
それってゆうちゃんにおめでたってこと?』
『言い方を変えるならそういうことね。
それでね、今日から一カ月後にあなたを赤ちゃんの身体に移すから、それまでにやりたいことは終わらせておいてね』
『そっか、いよいよなんだ。でもあんまり時間がないね』
『ゆっくりとしているわけにもいかないのよ。赤ちゃんはどんどん大きくなるわ。本当なら、おめでたが確定してから一週間ぐらいの間には入ってもらうのだけどね。
今回はユウキの力が無意識のうちに働いているから猶予があるの。それでも一カ月が限度なのだけど』
『わかった。
それで、ゆうちゃんには妊娠していることをもう伝えるの?』
『その前に、ゆう姉に伝えておくことがあるわ』
玲亜ちゃんが言うには、わたしが身体を得るとそれ以降、わたしは今までの記憶を思い出すことが無くなるし、念話も通じなくなるだろうという。そしてゆうちゃんには事が終わってから、つまりわたしが身体を得た後に伝えるつもりでもあると。
『事が終わってからじゃないと、あの子嫌がりそうじゃない?』
『あぁ、それはなんとなく分かる。
でもわたしがきちんと話せば聞き分けてくれるとも思うんだけど』
『あなたの判断でユウキに伝えるのは止めないわ。投げちゃうみたいで申し訳ないけれど』
そう言って玲亜ちゃんからの念話は切れる。
いよいよなんだ。そう思うと肩の荷が下りたような、そして寂しいような、他にも色々な感情が混ざり合って整理が付かなくなる。
ゆうちゃんに知られないように、わたしはひとり、閉じこもった。
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