第5章 破壊神、あらわる
第64話 うつしよのゆめ
気がついたら目の前に
しかもなんだか恥ずかしそうに頬が赤みを帯びているようにも見える。そして顔がどんどんと近づいてきたと思ったら、彼に両肩を掴まれた。
眉間に皺が寄って困った顔をした彼の表情の変化を見た瞬間、耳に飛び込む声。
「
その声を切っ掛けに、急速に周りの景色が戻ってきた。
思わず見回すボク。肩は掴まれているので顔だけを左右に。ここは学校の廊下だと気づくのにそう時間はかからなかった。でも。
ボクはまだ家で眠っていたはずじゃなかったのかな。
記憶と今の様子が噛み合わなくて戸惑いでいっぱいになる。それに目の前に司くんがいるのも理由が分からない。
そして再び聞こえる彼の声。
「優樹さん、大丈夫?」
「え? え? あの、ボクまだ眠っていたはずじゃ?」
「何言ってるの、ここ学校だよ」
「え?」
「優樹、どうしたの?」
戸口から駆けつけた
「ちょっと様子がおかしいね、保健室に運ぼう」
彼がそう言うと愛ちゃんたちも頷いて、そのまま4人がかりで保健室に連れて行かれる。
保健室ではベッドに直行。そしてその上に座らされると、愛ちゃんと司くんが残ってボクの正面に立った。
心配そうに覗き込んでくる二人に向けて発した言葉は、なんとも場違いなものだったと思う。
「あの、ボクいつの間に学校にいるの?」
その言葉を聞いて瞬間フリーズした目の前の二人だったけど、すぐに愛ちゃんが戸惑いをぶつけてきた。
「はあ? 何言ってるの優樹、あんた朝ちゃんと登校してきたじゃん」
「……その記憶が、ないんだ、よ」
「なにそれ」
愛ちゃんが訝しげに片眉を上げた。
司くんが眉根を寄せて心配そうだ。
そしてボクは多分泣きそうな顔をしていたはずで。
その心配顔のまま彼が静かに尋ねてきた。
「また夏休み前みたいに体調が悪いのかな?」
「それは、ちょっと分からない、です。
今朝起きた記憶もないし、登校したっていうのも全然」
パニックを起こす寸前の心をなんとか落ち着けながら、苦しい表情のままボクは答える。
「それじゃ優樹、あんた寝たまま学校に来て授業受けてたって訳?」
「どうなんだろう……でも寝ずに授業受けてたんだよね?」
戸惑いが続くせいか、ボクの声はいつになく震えて、か細く吐き出される。
「あたしが見ていた限り普通に授業受けてたよ、朝の挨拶も普通だったし」
司くんが落ち着いた声でその後の様子を教えてくれる。
「それで休み時間に僕の所まで、用があるからってやって来たんだ。そして廊下に連れ出されたら急に言い寄られて、ちょっと落ち着こうかって肩を掴んだところだったね」
なんとか彼の顔に焦点を合わせて声を絞り出す。
「あの、司くんごめんなさい、迷惑掛けちゃったみたいで」
「いや、それは良いよ。
でも何が起こってるんだろうね、心配だね」
ボクをここで休むように諭して、二人は教室に戻っていった。入れ替わりに養護の成田先生が保健室に戻って来る。とりあえず休むように指示されて、ボクはベッドに横になった。
それにしても記憶がないのはおかしい。
授業中で悪いけど、玲亜ちゃんにも意見を聞いてみようと思って念話を飛ばす。
『もしもし?』
返事はすぐに飛んできた。
『ユウキ、どうかした?』
『実は今保健室で休んでる』
『また? 前もそんな事あったわよね?』
『今回は前と違うんだけどね』
実はさっきこんな事があってと説明する。そして朝起床した記憶も学校に登校した記憶もないことを。
『それで、周りの人たちはアナタの行動に不審を抱かなかったわけ?』
『愛ちゃんに聞いた限りでは普段と変わらずに挨拶もしたし授業も受けてたっていうんだよ』
『妙ね』
『でしょ?』
『それでユウキ、今回がこういうのは初めて?』
『関係あるかどうか分からないけど、一学期のうちから変な夢はよく見てたんだ』
『どんな夢よ?』
『ボクと
それで良い雰囲気になってキスするところで目が覚めるっていう』
『アナタ相当宇佐美のことが好きなのね』
『その頃はそこまで好きで堪らないって訳でもなかったんだけど』
そこでボクは、一学期の登校中に倒れた日の夢のことを話した。
もう一人のボクと宇佐美くんがいちゃいちゃしているのを、ボク自身がその後から見ていたという、あれを。
『なんだかややこしいわね、夢の中でアナタが二人いたって事?』
『そういうこと』
そこでちょっと念話が途切れたのだけど、少し時間をおいて彼女から返事があった。
『それ、この事件のヒントかもしれないわね』
§
玲亜ちゃんの見立てでは、もしかすると女の子ゆうきの魂のしわざじゃないかと言う。
『普通、魂は身体が死んでしまえばその中にはいられなくなるわ。そして身体から抜け出して流転時空にたどり着くものなんだけど、彼女の場合は仮にも身体は生きてるから繋がりが切れないわけ。だからまだその中にいるんじゃないかしらね?
それにしたって身体を乗っ取って勝手に行動したりできるのは異常と言えば異常なんだけど。
それに、この件は早く解決しないといけないわ』
『どうして?』
『アナタの体は本来彼女のものでしょ?』
『そうだね』
『だから魂と肉体の繋がりは彼女の方が強い訳よ』
『それが何か問題なの?』
『彼女が浮かんでアナタが沈んでいる時間が延びれば延びるほど、アナタの魂は消耗していくわ。それも相当早くね。
アナタの魂は元が破壊神だからそう簡単にはなくならないとは思うけど。なくなってしまえばアナタはこの世界から消滅する事になるわね』
ボクはその言葉に絶句する。
『とにかく彼女がどういう状況なのか分からないのがネックね……。
この念話はたぶん聞かれていないと思うけど』
『どうして?』
『念話は直接アナタの魂に語りかけるからよ。
それでユウキ、ここからが作戦よ。まずは相手が本当に女の子ゆうきの魂なのか確かめる必要があるわ』
『うん。でもどうやって?』
『彼女が行動したらワタシに教えて欲しいの』
『でもボクからは無理だよ、ボクの意識はないし。
だからボク以外の誰かにそれをやってもらわないといけない。頼りにできそうなのは宇佐美くんといつもの三人だけだけど……、この話、信じてくれるかな?』
『信じてもらうしかないわね。
一度その4人とユウキとワタシで会談しましょう。セッティングはユウキ、あなたにお願いするわ』
『……分かった。なんとかやってみる』
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