第60話 熱愛偽装作戦 上
夏休み終盤、月遅れのお盆にさしかかって夜の虫が声高らかに鳴き始めた頃。LTSGのライングループに
<
(えーと、どこが分からないかな?>
<数学だよ~。演習の50ページ、問5の1)
(ちょっと待ってね。見てみるよ>
<あーあれねー、私も分からないんだわ実はー)
<なんだい
<実は私も分からないんですよ。便乗させてもらいますね)
(みんな解けないんだ。一回集まる?>
そんな事があって、その翌日に街のカラオケで臨時のLTSGが開かれた。
例によって恋バナが始まってボクと
その翌日の夜、今度は宇佐美くんからのライン通話が入った。少し困っていてと切り出されて、こんなことをお願いできる人はいなくてと言う。
「実は同じクラスの
舞浜と聞いてイヤな予感しかしなかったけど、話を聞くことにした。
「明後日、文化祭の準備で集まるよね」
「そうだね」
「ここだけの話なんだけどね、一学期のうちから舞浜さんにつきまとわれて困っているんだ。もちろん家まで押しかけてくるって事はないんだけど、学校にいるときには理由を付けて寄ってくるんだ。
でも問題はその距離感でね。どうかするとすぐに手を掴まれるし、べったり張り付いてきてね。
僕も女の子相手にあんまり無茶なこともできないし、友達にはからかわれるしでどうにかしたくて」
「それでわたしにって言うのが繋がらないんだけど」
「ごめん、無理のある話かも知れないけど、
「ええ?」
「無理だよね、さすがに」
「ちょ、ちょっと急だからびっくりしただけだよ。つき合ってるのは良いとして、そこから上は……少し考えさせてもらってもいいかな?」
「そうだよね、ごめん無理言いすぎたね、やっぱり……」
「あの、1日だけ待ってもらっていいかな?」
「いや、やっぱり自分でなんとか……って、え? 財部さん?」
「少し考えたいので、待ってもらっていいかな?」
「いや、あの、大丈夫?」
「わたしも舞浜さんには困っている部分があるから」
「そ、そうなんだ」
「うん、なので今後の展開とかも考えてみて、それから返事するよ」
「それは助かるけど」
「大丈夫、他にこの件を漏らすようなことはないから」
「はい……」
自分でも訳が分からないほどの超展開だけど。これは考えようによってはまたとない機会とも言えて。宇佐美くんとのライン通話が終わったその流れでLTSGに相談を持ちかける。
(ごめんこの内容は他言無用でお願いするんだけど、今さっき宇佐美くんから相談持ちかけられた。>
<え?なにそれ)
<というか優樹ちゃん既に宇佐美君から相談される仲かー)
(今回が初めてだよ。それにまだお友達なだけだよ。>
<お主も隅に置けませんのう)
[いやいや彼はそう思ってないかもよ?)
<それで、なんて言ってきたんです?)
(それがね、舞浜さんの行動にすごく困ってるから、協力してくれませんかって。>
<何を協力するん?)
(ボクとつき合ってることにしたいって。>
<うおー!なんだそれ!大チャンスじゃん)
<まさかの超展開ですねえ。)
<それで返事どうするのさー?)
(それをみんなに相談したくて。>
<そりゃそうだ。そんなん一人で答え出ないよね)
[でも舞浜対策って事は、付き合ってることをおおっぴらにしたいって事だよね?)
(間違いなくそういうことだと思う。>
(しかもそれなりに深くつき合ってることにしたいらしくて。]
(とりあえず1日くらい待ってと伝えてあるのと、ボクも舞浜さんには困ってるとだけ言ってある。]
<あ、それ言っちゃったんだ)
<それが伝わっているなら話は早いんじゃないでしょうか。)
<とりあえずゴーサインで良いんじゃないかなー?)
(それでちょっとみんなのお知恵拝借なんだけど。ボクが宇佐美くんと大っぴらに付き合い始めたときの舞浜さんたちの反応っていうか行動っていうか、どうなると思う?>
<ああ、やっぱ気になるよねそれ)
<また前みたいに嫌がらせが始まるんじゃないかって事でしょうか?)
<まー、それは十分にありうるよねー)
(ボクだけに嫌がらせが降りかかるのはなんとかなるけど。三人にも降りかかっちゃったら困るなって。それに宇佐美くんにも矛先が向くかもしれないし。>
<んー、あたしらは大丈夫だと思うけどねー)
<正直、前のスカートレベルのことが身に起こると少し厳しいかもしれませんねえ。)
<少なくとも宇佐美君に矛先が向くことはないでしょ。そんなことしたら舞浜の思惑がダメになるし)
(それもそうか>
<それに、なんとなれば
(どういうこと?>
<舞浜のことを良く思っていないのはあたしらだけじゃないって事)
[栗原さんたちも前々から舞浜たちを良くは思ってないんだよね)
[ただ表だって動くと四組二分して騒動になるじゃん?)
[だから静観してるわけ)
(そうなんだ……そんなの全然知らなかったよ。>
<まぁ色々思惑はみんなあるって事)
[大丈夫だよ、栗原さんたちが優樹の敵になる事はないから。それはあたしが保証する)
<愛ちゃんがそう言うなら大丈夫だからー、優樹ちゃん安心していいよー)
(ありがとうみんな。>
(じゃあ、オーケーって事で返事しようと思う。]
方針が固まった。もう遅い時間だったけど日が迫っているし、打合せもいるだろうと思って、LTSGのやりとりの後すぐに宇佐美くんにラインで連絡する。
(宇佐美くんの提案、受けることにしました。>
返事はすぐに返ってきた。
<えっ、早いね。でもありがとう)
(気にしないで良いよ。>
(とりあえずもう日が迫ってきてるし、返事だけは早い方が良いかなと思って。]
(細かい打ち合わせはまた明日で良いかなって思うんだけど。]
<うん、それでいいよ)
(……それで。これ、舞浜さん対策だけじゃ、ないよね?>
<それは……)
ちょっとカマを掛けて尋ねてみたけど、彼からの返事がなかなか来ない。これはまずったかなと思って話を変えようかと思った矢先、それは届いた。
<本当はラインじゃなくて直に会って伝えたかったんだけどね)
その文字を見て、これはガチ目のお話だと気が付いた。ボクは大慌てで彼が次に送ってくるだろう言葉を遮る。
(ごめん、変な事聞いた。今のちょっと保留で!>
(本当にごめん。宇佐見くんの気持ちをちゃんと考えてなかった。]
(そうだよ、こう言うのは直に会った時にだよね。]
自分でも驚くほどの超速度でリプライ返し。しかも男言葉でリプしちゃったけど仕方ない。
彼の方で返事を入力するアイコンが出るけど、一向に返事は来ない。相当悩んでるみたいに見える。そのまま返事を待つのもなんだかフェアじゃない気がしたので、それとなくボクの気持ちを匂わせて、明日に繋げることにした。
(すみません、嵌めるような訊き方しちゃって。>
(あの、宇佐美くんの気持ちは今度しかるべき時に伝えてくれれば良いので。]
(どんな言葉でも否定しないので。]
(それじゃ、おやすみなさい。また明日打合せの連絡します。>
ボクがそうやってやりとりを終わらせようとしたら、彼からもおやすみの返答が届いてその夜のラインは終わった。
スマホを持ったまま机に突っ伏す。いくらなんでもあんな訊き方はなかったし、慌てて返した言葉もどうしようもなくて、フォローにすらなっていなかった。
彼にすごく悪いことをした後悔と、自己中なボクに幻滅したままお風呂の時間になった。そしてその後味の悪い気持ちのまま、ベッドに潜り込む。
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