第53話 無敵モードって訳には行かないよ
水泳の授業が終わってみんな一緒に更衣室へ赴く。
着替えを探してロッカーの中を探ったボクは異変に気がついた。周りに心配を掛けないようにこっそりと探したけれど、制服のスカートだけなくなっている。
「ん?
それでも
「うん、なんでもないよ。ちょっとプールサイドに忘れ物したみたいだから、二人とも先に戻ってて良いよ」
ボクの言葉に愛ちゃんも
誰もいない更衣室。念のため扉の鍵を内側から掛けて、ボクはお願いをして水着をスカートに変えていく。
§
校舎の陰から更衣室の様子を見ていたら、慌てた様子で
なにせ彼女のスカートはこの私の手の中にある。
「ねえ
私の隣で同じように更衣室の様子を見ていた
「ん、もうちょっと見てるよ。あんまりにも出てこないようなら様子見に行かなきゃならんし」
私がそう答えて目線を陽菜に向けたときだ、彼女が私の背後を指差して目を点にした。
「美羽! 財部出てきたっ! けど、あ、あれ?」
陽菜の声に振り向く。そこには普通にスカートをはいた制服姿の財部が教室に向かって駆けて行く姿があった。
§
教室に戻りつつもスカートが落ちていないか辺りに目配せしながら進む。けど結局見つからないまま四組の教室まで戻ってきてしまった。ボクは後ろの戸口からそっと席に戻る。
教室に入るときに
席に着くなり愛ちゃんが耳打ちしてきた。
「優樹、捜し物見つかった?」
「うん、見つかったよ。と、言いたかったんだけどね……ちょっとこの件はまた後でね」
ボクが含みを持たせてそう言うと、彼女は何事か理解したようで軽く頷いて自席に戻っていった。
§
そしてランチタイム。
いつものように四人で机を囲む。ただ、今日のその時間はやや緊迫していた。
「それで優樹、何があったのか説明できるよね?」
愛ちゃんがややすごんだ様子でボクに話しかける。
ボクは周りに聞こえないように気をつけながら、水泳の時間に起きたことを三人に話す。スカートが更衣室から消えていたこと、代わりをたまたま持ってきていたので事なきを得たこと。軽く探してみたけど見つからなかったこと。
本当は代わりのスカートなんてなくて、ボクがお願いで水着をスカートに変えたわけだけど。
「それについて少し気になったことがあるのです」
そう言って三人の注目を集めたのは
「実はですね、水泳の見学をしていたら授業の途中で
すぐに出てきたのでそれきり気にもしていませんでしたけど、今の優樹ちゃんのお話を聞くに怪しいですね」
頷く三人。そして。
「状況証拠としては十分だけどねー」
佳奈ちゃんがまとめかかるものの、愛ちゃんが割り込んだ。
「でも状況だけだし、ちょっと弱いかな。優樹はどうしたい?」
「ボクは今の状況で白馬さんと瀬戸田さんを問い詰めるのはまだ早いと思う。
それよりもスカートを探したいかな」
「わかった。優樹がそう言うならこの件は一旦保留ね。ランチが終わったら探しに行きましょ」
そう言って愛ちゃんがこの場をまとめると、残る三人も一様に頷いた。
ランチタイム後半を使ってボクのスカートを探す。それは実にあっさりと見つかって、昇降口に置いてあるゴミ箱の中から出てきた。
「まあ、予想はできてたけどこれはちょっとひどいね」
愛ちゃんが手に取った
放課後、手持ちのコンビニ袋に傷んだスカートを入れて家路に就いた。
こんな様子をパパとママに見せるわけにもいかなくて、ボクは人目に付かないところで傷んだスカートをお願いで直す。
すっかり元通りになったスカートを綺麗に畳んでリュックに入れたけど、ボクの視界は悔し涙でぼやけてしまう。
元通りにできるとはいうものの、ここまでされて平気な顔はどうしてもできなかった。
§
夜、念話で玲亜ちゃんを呼び出した。
『もしもし玲亜ちゃん?』
返事はすぐに返ってきた。
『どうしたのユウキ。何か困りごと?』
『そうだね、ちょっと人付き合いでね』
それからボクは今日あった事を玲亜ちゃんにも話していく。
『ふうん。それはなかなか大変な目に遭ったわね』
『力のおかげで助かったけど、良い気分じゃないねこれは』
『それはそうでしょうね。それで今後はどうするの? 仕返しとか考えてるの?』
『まだ白馬さんと瀬戸田さんがやったって証拠はないしね、それにこれにはバックがいるんだと思うし』
『へえ。目星は付いてるんだ?』
『そうだね。少し前からボクに絡んでくる人がいて、今回の二人もそのグループだから』
『まあ普通の人間相手ならアナタとお友達だけでなんとかなるわよね?』
その言葉を聞いて、ボクは少し言葉に詰まる。
嫌がらせ程度ならばボクの力で元に戻すのは簡単……ボクだけのことならば。もし愛ちゃんたちにまで累が及ぶとなれば話は変わってくる。
『……正直、ボクだけならなんとかなるけど。愛ちゃんたちまで巻き込まれるようだと難しいかもしれない』
『何か気になる理由でもあるの?』
『ボクの力のことを隠したまま皆を守り切れるかどうか自信ないよ』
『別に秘密にする必要もないんじゃない?』
シンプルに答える玲亜ちゃん。だけど、それじゃせっかく掴んだこの生活が全部ダメになってしまうかも知れない。今の生活があくまでも仮初めのものと割り切っている玲亜ちゃんにそれを理解してもらうのは難しいのかな。
『玲亜ちゃんはそれで良いのかもしれないけど、ボクは今の生活を守る必要があるんだよ。力のことがバレてボクがここにいられなくなったら、パパやママまでここにいられなくなるかも知れない』
『そんなのはその時になってみないと分からないじゃない。それにねユウキ、アナタの持っている力、多分アナタはそれを過小評価しすぎてる』
『え?』
『よく考えてみなさい。アナタの力があれば人一人、簡単に消し去る事だってできるのよ? この世のどこにも存在しなかったことにだってできる。さらには人の未来だって見ることができる。忘れているのかもしれないけど、
大きな天変地異でも起きて多くの人に一度に災厄が降りかかることを止めるのだって、難しいけどできなくはない。でも、アナタの大切な人たちの運命ぐらいは後からでも簡単になかったことにできる。そうね、死ですらも。
多少の傷跡はどこかに残るかもしれないけれどね』
それは途轍もなく割り切った考え方だった。
何か事が起こってからでも十二分にリカバリーできる。破滅的なことが起きてもそれをまったく無視して続きを歩むことができると言うのだ。
『……ワタシから言えるのはそれだけね。また相談しにいらっしゃい。ユウキからならいつでも歓迎よ』
玲亜ちゃんはそう言って念話を切ってしまった。
リカバリーがいくらでも効くという話はボクの心を多少楽にはしてくれたけど、本当にそれでいいのかなというボクの迷いは晴れることがなかった。
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