第43話 代走!ゆうきちゃん
話は少し前に遡って、
光星高校は県内随一の進学校という事もあってか、体育祭は六月頭に行われる。
時期としては中間テストの直後。
ボクが復学するちょっと前に、誰がどの競技に参加するかを決める話し合いがあったと聞いた。
当然ボクはそれに参加していないので、今年の体育祭は全員参加競技だけに。なるはずだったのだけど。
§
愛ちゃんとの勉強会が始まった翌日、その愛ちゃんから相談を持ちかけられた。
「ボクが代わりに競技に?」
「そう。予定してた子が一人部活で足痛めちゃってさあ」
見ると愛ちゃんの少し後ろに松葉杖をついた女子が。
「ごめんなさい。みんななにかしら役があったりして、フリーなのが
「ボクは、いいけど。松崎さん、足だいじょうぶ?」
「うん、少し捻っただけなんだけど、お医者さんに3週間かかるって言われちゃって」
見ると左脚のくるぶしを中心にギプスが巻かれていて痛々しい。
「そうなんだ、大変だね。早く良くなるといいね」
「ありがとう」
その返事を聞いて、ボクは愛ちゃんの方を向く。
「それで、ボクはなにをしたらいいの?」
「ええとね、まず綱引きでしょ、それから男女混合リレーだね」
そこにもう一人女子が話に加わってきた。
「リレーは男女二人三脚でー、クラス対抗って言うのでもないわよねー。あれなんて言うの?」
話しぶりから察するに愛ちゃんと仲が良いみたいだけど。誰だろう。
「一クラス代表一組出して、一組なら一組の一年二年三年の計6人で1チームでしょ、それでチーム対抗戦って言うんだっけ、あれ?」
愛ちゃんがそう答えると、加わった女子は愛ちゃんの隣に立った。
「それそれ。チーム対抗戦って聞いたねー」
「それで、うちのクラスは男子が
愛ちゃんの話をその女の子が受ける。
「リレーはグランドのトラックを1組につき半周ねー。だからー、1チームあたりは1周半走る事になるねー」
「先輩に聞いたけど、上手く走れないから毎年結構盛り上がるらしいね」
「……で、大橋君のことー。アイツ確かに足は速いのよー、でもねーあんまり周りを見てないっていうかー」
「そうそう、突っ走るタイプだねあれ」
「身体もごつくて背があるしー」
「それで他の子にも打診してみたけどみんな怖じ気づいちゃって……」
「……それで最後にボクの所にってこと?」
「ほんとゴメン! なんか外れクジみたいになっちゃって」
愛ちゃんがボクの言葉に間髪入れずに拝んで来る。
いや、そこまでされなくても愛ちゃんのお願いだし断る筋はないのだけど。
「うん、ボクはだいじょうぶ。けど、上手く走れるかな? 一回練習してみないとダメだよね」
「おぉー、優樹ちゃん前向きー!
あ、でも病気とか大丈夫だったかな?」
「うん、そっちはもう大丈夫だよ」
「そっか、良かったあ」
愛ちゃんの嬉しそうな声が響いて、早速今日の放課後に走ってみることになった。
§
大橋君は確かにでっかかった。聞くと身長は186センチ。ボクが159センチだからその差は30センチ近い。
しかも背丈だけじゃなくて筋骨隆々ってやつで肩幅もすごい。
足を縛って隣に並ぶと彼の肩が顔に当たってすごく邪魔になる。
柔道部でも新入生のホープなんだそうで、なるほどそれで鍛えている訳だった。
それはさておき、なんでこんな規格外を選んじゃったのさと心の中で愚痴を吐くけど、決まっているものはもうどうしようもなくて。
「それじゃ早速行くかあ」
彼は無駄にでかい声でそう言うと、ボクの肩をがしっと抱えて息を合わせる間もなく走り出す。
「とっとっと」
彼の大きなストライドに釣られるように足を繰り出したけど、思わず声が出た。
彼はそんなボクの事を気にする事もなく勝手なペースでずんずん前に出る。
あまりに急なので転ばないようにスタートするのがやっと。
でも、なんとか身体の方はついて行けている。とにかく無心になって彼のペースについて行く事だけ考えて足を交互に前に出す。
この身体なら彼より先に限界に達する事はないだろうっていう安心感があって、そのせいか心には余裕がある。
そのうちだんだんスピードが上がっていって、トップスピードのままゴールラインへ。
「すごい、すごいぞ優樹ちゃん!」
声を上げて駆け寄ってきたのはタイムを計っていた愛ちゃん。
「息ぴったり合ってて最後めっちゃ速かった」
「そ、そう? ボクは大橋君に付いていくので精一杯だったんだけど」
「それでも! ねえねえ陸上か何かやってた?」
「いや、やってない、けど?」
「えー、信じられないなー。絶対何かやってた人の走りだって」
愛ちゃんが興奮しきってしまって、僕が何を言っても信じてくれそうにない。
そのうち、様子を見ていた他のクラスメートも集まってきて褒め称えてくれる。
そんな感じで大橋君ともども、しばらくの間女の子達に囲まれていたけれど、ボクの頭上から低音が響いた、
「もう一回走ってみようぜ。良いだろ? さっきの感じだともうちょい行けそうだ」
そう言って大橋君がまた勝手にスタートラインへ歩き出そうとしたので、ボクは足を少し踏ん張って抵抗する。
繋いだ足を上げられなくてつんのめる大橋君。彼は声を上げて焦っていたけど構いはしない。ちょっとボクからも一言言いたかったから。
「ねえ大橋君。一つだけお願いがあるんだけど」
少し大きめの声を出したせいか、彼は驚いた顔でこちらに振り向いた。
「スタートの時ぐらいは声かけてくれないかな? じゃないと危ないよ、ボク転びそうだったから」
何かに気圧されたのか、彼の返事は一瞬遅れる。
「お、おう、分かった」
そして二回目の試走。
今度は声を掛け合ってスムーズなスタートを切った。一回目よりも伸びる加速。
並走する大橋君の表情を見上げると、驚いている表情が見えた。どうやら彼も体験したことのない速度らしい。
そして再びゴール。
一回目よりもさらに速いタイムが出て、愛ちゃんが今まで見たことないぐらいに興奮していた。
その後、
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