第42話 LTSG
さっそくその日のランチタイムからボクと
略して『LTSG』、命名したのは玉垣さんだ。
そのまんまでひねりも何もなかったねと彼女は笑って言ったけど、その命名にボクはまんざらでもなくて。暗号というか符丁というか、二人の間にしか通じない言葉があることが、なにより友達ができた実感を与えてくれるようでもあって。
「ええと、まずは改めてご挨拶からしよっか。私は
彼女はそう言いながら手元のノートの片隅にサラサラと名前を書いていく。
「えーと、
「うんそう。それで、
「ボクの名前は優勝の優に樹木の樹でゆうき。ボクも下の名前で呼んでもらって良いよ」
ボクも自分のノートに名前を漢字で書いていく。
「
「さん付けはちょっと固いね……。同い年なんだし優樹ちゃんで良いよ。家族にもそう呼ばれてるし」
「わかった。それじゃ優樹ちゃんって呼ぶね」
「うん。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
こうしてややかしこまって始まったLTSG。
そのまま二人だけの勉強会で続くのだろうと思っていたら、翌週には早くももう一人増えることになった。
§
「よろしくお願いします。
三人目のメンバーは史香ちゃん。席は愛ちゃんの左斜め前。
先週始まったLTSGの様子を見て、愛ちゃん経由で参加したいと申し出があった。特に断る理由もないボクは二つ返事でオーケーしていた。
史香ちゃんは愛ちゃんに比べるとだいぶ真面目そうな印象。真面目というか、固いというか、なんだけど。聞けば同じ中学校出身の生徒は男子しかいないらしくて、高校での友達作りに少々困っていたと話してくれた。
「ボクも愛ちゃんから声が掛かってなかったら、クラスの友達ゼロ人のままだったよ」
「愛ちゃん、明るくて活発で話しやすい雰囲気だから助かりますよね」
「そうだねー」
「今クラスの友達って言いましたよね、他のクラスにはいるんですか?」
「一人だけね。一組だったかな」
「そうなんですね、男子ですか? 女子ですか?」
「も、もちろん女子だよ」
「女子なんですね。かわいい系ですか、それともきれい系?」
「どっちかって言うときれい系? じゃないかなあ……っていうか顔、近い……です」
ボクがそう言うと史香ちゃんははっと我に返ったようで、メガネをかけ直して元のポジションに戻ってしまった。
友達作りに困っていたと聞いて引っ込み思案なのかなと思ってたけど、急に近寄ってくる距離感がどうにも掴めない。でも勉強を教えている間は一定の距離を置いていたりするので、そのギャップがまた不思議だったり。
§
そしてまた次の日、LTSGに四人目のメンバーが加わった。
愛ちゃんが通っていた塾で同席していたという
「
「ボクのことは優樹ちゃんって呼んでくれたら良いよ」
「わたしのことは史香でもふみちゃんでも好きな呼び方でいいですよ」
こうして愛ちゃん、史香ちゃん、佳奈ちゃんの三人から慕われて勉強を教えることになったボク。今までは
そして分かるのは、教わるよりも教える方が勉強になるという事。
知識や考え方を人に教えるためには、自分がそれを良く理解して自分の血肉にしておかないと
同時に世の先生方の苦労も多少は分かったような気がして、授業そのものにも今までより身が入って来るような感じがした。
§
LTSGが四人グループになった翌日、水曜日のお昼休みに意外な顔がボクたちの前に現れた。
「ユウキ、お昼一緒に食べない? って、なんだもうちゃんとグループできてるじゃない」
「あ、れいあちゃん。珍しいね」
れいあちゃんがお弁当片手に四組の教室を訪れた。
「案外馴染むの早かったわね。上手くやれてるみたいでなによりだわ」
「うん。みんな優しくて助かってる」
れいあちゃんはその場に立ったままにこやかに話す。
ボクは彼女の座るイスがないのに気がついて、空いているイスを探そうと立ち上がると、そこに史香ちゃんの声が掛かった。
「あの、優樹ちゃん? この方どなたでしょう?」
そういえばれいあちゃんを知っているのはここではボクだけだった。
三人に彼女を簡単に紹介する。
「あ、紹介するね。ボクのお友達で、れいあちゃん」
「はじめまして。一組の
ボクにも見せたことのないような笑顔で挨拶をするれいあちゃん。
その様子を見て、なんとなく箸が止まる三人。
三人が三人ともれいあちゃんに目が釘付けになってしまった。
「なんか、みんなお箸が止まってる」
ボクの一言で我に返った愛ちゃんが慌てて言う事には。
「いやっ、なんかすごい綺麗な子だぁ~って見とれちゃって……あはは」
「秦さんって言いましたっけ、優樹ちゃんとは昔からのお友達って事ですよね?」
史香ちゃんが尋ねた。
「ええそうよ。ユウキとは同じ中学だったの」
「そうなんですね」
「またお昼一緒にするかもしれないから、よろしくお願いね」
微笑みを絶やさずにさっと会話に馴染んだれいあちゃんを横目に、ボクはイスを持ってきて彼女の後ろに据える。
れいあちゃんも入れて五人のランチタイム。
会話も思いの外弾んで、和気藹々としたひととき。
れいあちゃんも含めてお互い自己紹介。その席で、ボクはようやく彼女の名前をどう書くのかを知ったりして。
ほどなくみんな食べ終わって、ここからはお昼休み第二ラウンドが始まる。
机をくっつけたまま展開する四人の教科書とノート。
史香ちゃんが英語を聞いて来た。それにボクは丁寧に答えていく。
史香ちゃんの番が終わったところで玲亜ちゃんが小声でボクに尋ねて来た。
「ユウキ、アナタ毎日これやってるの?」
「ん。そうだよ。ここ一週間ぐらいはこんな感じかな」
「毎日は大変でしょうに」
「最初は愛ちゃん一人だけだったんだけど、いつの間にか増えちゃって」
照れ隠しにヘラヘラした顔でそんな事を答えると、愛ちゃんがすまなさそうに言った。
「優樹ちゃん、勉強教えるの大変?」
「いや、ぜんぜんだよっ、全然大丈夫だから。ボクも勉強になるし」
他の二人も心配そうな目で見つめてくる。
ボクは努めて真顔になって、大変じゃないアピールを強調する。
だってこの会はボクに友達ができたすごく大事な会。そう簡単に終わらせる訳には絶対にいかなかった。
「佳奈ちゃんも史香ちゃんも、大丈夫だから、ね? そんな顔しないで」
そうやって三人に教えている様子を玲亜ちゃんもしばらく見ていたけど、そのうち時間が迫って来て、彼女はさよならの挨拶とともに自分の教室に戻っていった。
こんな飛び入りはそう滅多に起きないだろうと考えていたのだけど、その考えは翌日簡単に裏切られることになった。
§
翌日のランチタイム。玲亜ちゃんが再びやってきた。
ところがその後ろからさらに二人。
「あれっ? りつこじゃん」
声を上げたのは愛ちゃんだった。
「あ、めぐみー」
りつこと呼ばれた女の子が返事をした。
「あら。あなたたち知り合いなの?」
「愛とは同じ部活なんですよ。ラクロス部で」
りつこと呼ばれた女子の名前は
1組ではだいたいいつも玲亜ちゃんと一緒にいるのだそうで、二人とも彼女の事をかなり慕っているのが言葉の端々から伝わって来る。
生成神としての玲亜ちゃんの言動を知っているだけに、彼女がこんなに社交的に上手くやれるのだとは思ってもみなかった。
自分の事はさておいて、そんな玲亜ちゃんの様子にボクはひとまず安心した。
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