第41話 テストからはじまる友達の輪
れいあちゃんと話をした翌日から、中間テストの採点が次々返ってきた。
周りを見てみるとそれぞれに一喜一憂。
女子は男子ほど騒ぎはしないけど、それでもこしょこしょと仲の良い同士それとなく探り合い。中には普段と違う様子で落ち込んでる子もいるし、ボクの隣の席の子なんかさっきから机に突っ伏したままピクリとも動かない。
そして、ボクはと言うと……。
思っていたよりはけっこう良い出来で、どの科目も八割はキープできていた。
日々のプリント責めを愚直に解いていたのが功を奏したのか、手応えはかなりあったし結果もそれに付いてきたようで、自分としては満足してる。
この調子だと明日からさらに返ってくる採点も少し期待してしまう。
§
その日の夜の報告会。
ボクは少しばかりニマついた顔で堂々とテストの結果を報告した。
「中間テストの採点が返ってきましたー」
「あら、昨日テストが終わったばかりなのに、もう?」
ママもパパも驚いてる。
「うん。すごく早いからボクもびっくりだけど、今日は三科目返ってきたよ。古文と地理と基礎生物」
「その話し方だと自信はあるようだねえ」
パパが満足げな笑みを浮かべてる。
ボクは答案用紙を二人それぞれに渡して、反応をワクワクしながら待っている。
「古文89点も取れたのかい、これはすごいねえ」
「基礎生物87点。すごいわねゆうきちゃん。勉強遅れてたのに」
「学校の復習とプリント消化に集中してたのが、逆に良かったみたい」
パパが次の答案を手に取った。
「地理92点。これはもっとすごいねえ」
「ええ? クラスで一番なんじゃない?」
ママもパパの手元にある答案用紙を注視する。
「そんなことないよ。一番は宇佐美君だったよ」
パパは持っていた答案をママに渡す。
「前にショッピングモールでゆうきが追いかけたっていう男の子だねえ」
ママは両手に持った答案を交互に覗き込んだと思ったら、その間から顔を覗かせる。
「ねえねえ、宇佐美君ってどういう子なの?」
急にそんな話になるものだから、僕の目は少し泳いでしまった。
瞬間高鳴った動悸を押さえるように少し息を整えたら、ボクは目線をパパとママ交互に交わしながらゆっくりと話す。
二人とも時々頷きつつ真剣に聞いてくれる。
「え、どうって……うーん。勉強はすごくできるよね。スポーツもそこそこ上手。今、部活に入っているかどうかは知らないんだけど、中学校の時はテニス部だったよ。
それから、中学校じゃ学年一番だったはず。少なくともボクが男の子の時には一番で、ボクは三番とか四番とか。
彼に学校の成績で勝てたことは一度もなかったね。でも仲はすごく良かったから彼に追いつこうとボクも一生懸命だった」
「そうなんだねえ。その流れで来ているからゆうきも良い成績を残せるんだねえ」
「うん。中学校で頑張れたのは彼がいたからだよ」
当時の楽しかったことも一緒に思い出されて、ボクの口元には自然と微笑みが浮かんだ。
§
翌日も、その次の日もテストが返ってきた。
そのたびにパパとママに褒めまくられる。
実際のところどの科目も85点を下回っていないし、客観的に見ても相当高得点なのは疑いようがなかったのだけど。それでもこの褒められようには、多少慣れてきたつもりだったけど、やっぱりちょっと大げさなような気がしていた。
それがパパとママなんだけれど。
§
試験が終わった日からちょうど一週間後、朝のホームルームで今回のテストの個人成績表が配られた。
一人一人
三番目に宇佐美君が呼ばれて成績表を手に自席に戻ると、その周りの男子が彼の手元を覗き込む。そして響く歓声。その声を聞いてさらにどよめきが広がった。
全校二位。クラス一位。
それが彼の成績順位だった。
さすがは宇佐美君だなと改めて感心する。
やっぱり彼はすごい。中学から高校へ、しかも県内一の進学校に舞台を移しても、彼は変わらずトップを走ってる。
そんな彼と小学三年生からの七年間、学友として親友としてどうにかこうにか彼の隣を駆けてきたつもりだったけど、ここでとうとう置いて行かれてしまったような気持ちがして、なにか無性に淋しさを感じた。
「
先生がボクを呼ぶ。
教室はまだ宇佐美君のいるところを中心に騒がしさが残る中、ボクは成績表を受け取ってそそくさと自席に戻った。軽く二つ折りにした成績表をゆっくりと開く。
「財部さんって、けっこう頭いいんだね」
不意に左隣から女の子の声がした。
驚いて声の方を振り向くと、目の前に隣の席の女子の顔がいて、ボクの成績表を覗き込んでいた。
その近さに思わず体を引いた。
「な、なに?」
「いや、私と違って財部さん成績良いなって。休んでてそれだもの、すごいね」
物欲しそうな目つきでさらに近づいてくる。
「そ、そうかな?」
ボクが答えると、彼女はにじり寄せていた体を元に戻して、今度は机に伏せってしまった。
「そうだよ。全校三十九位、クラス五位なんて、私から見たら天上の人だよ。
私なんてこれだもの。
そうぼやきながら、彼女は右手を伸ばして成績表をボクに見せてきた。
確かに下から数えた方が早い順位。だけど科目の得点は一見したところそんなに悪くなかった。たぶん彼女も光星以外でならトップ級なんだろうと思う。
「あーあ、やっぱり
机にもたれかかったまま、ボクの方に顔だけを向けてため息交じりにこぼす彼女。
「そうだね。みんなすごい人ばかり集まってきてるからね」
ボクも顔だけを彼女の方に向けて答える。
「財部さんだってそのすごい人じゃん……。私は普通にちょっとできただけの子だから」
「そんな事ないと思うよ。今上位にいる人だって、次もそうだとは限らないと思うし。この学校はみんなできる人ばっかりだから、だから頑張り方一つで上に行けると思うんだ。玉垣さんもその一人。ボクはそう思うけどな」
「……そうか、ボクっ娘なんだ。財部さんって」
彼女の口角が少し上がったように見えた。
「へ?」
急に切り替わった話に、ボクはついて行けない。
ふいと彼女は体を起こしてボクに向き直る。
「初めて見たときから思ってたんだけど、財部さんってちょっと他の女子とは違うよね」
ボクはその言葉にドキリと。
「あ、別に変な意味で言ってるんじゃなくてね。色々すごいなって思うんだ。勉強のこともそうだけど、落ち着いた雰囲気してるし、髪も長くて綺麗だし」
まさかいきなり褒められる展開になるとは思っていなくて、動揺を隠せない。
「そ、そんなこと、ない、よ?」
「ほらっ、ほらほらそれ。そのなんて言うかちょっと自信がなさそげなところとか。
私そういう所全然ないからさー。なんか憧れちゃうな」
ボクを指差して発せられた彼女の声が少し高くなって響く。
「こらそこの女子ー。もう授業始まってるぞ」
いつの間にか一限目担当の先生が教壇に立っていた。
「す、すみませーん」
焦った様子で授業の準備をする玉垣さん。ボクも慌ててノートを取り出した。
そのまま普通に授業が続く中、玉垣さんの方から肩をつつかれた。
こっそりと彼女の方を向くと、メモを手渡される。
―お昼のお弁当、一緒に食べようよ。あと、少し勉強教えて? めぐみより―
ボクに初めて普通の女の子の友達ができた。
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