第4章 高校生活、満喫する
第37話 高校生活リスタート
翌日、火曜日。
ボクは昨日よりも1時間早いバスに揺られて学校へ向かう。
さすがにこの時間は光星の生徒で満員になっていて、ボクは立ったまま。
他の邪魔になるのでリュックは下ろして左手でぶら下げて足元に。右手はポールに掴まってゆらゆらと運ばれていく。
学校前のバス停に到着。みんながぞろぞろと降りていく。ボクもその流れに乗って下車。そして校門まで続く坂道を、昨日と同じように上っていった。
今日も日差しがきつい。
日傘が欲しいかもと思いながら歩いているけど、そこまでしてる女の子は見当たらなくて。校則じゃ日傘はどうだったっけと思い出そうとするけれど、そもそも校則なんてまじめに読んだ記憶もなくて。
他の生徒と一緒に歩いていて気がついたけど、こうやってボクが歩いていても気にする人なんていないもので。
それはそうだよね、別に生徒が一人増えたところで分かる訳はない。
でもそれは昇降口まで来ると少し違う様相になった。
見知らぬ顔が同じクラスにいるとなるとなんとなく分かるようで、ボクが上履きに履き替えるときには、同じ四組の下足箱を使っていた生徒数人がこちらを見つめていた。
そんな彼らを横目に、ボクは渡り廊下を伝って職員室と事務室のある本館校舎へと一人向かった。
事務室で声をかけて、自分の学生証と定期券用の通学証明書をもらう。
なんだかまだ他人の写真のようで、高校に戻った実感がもう一つではあり。でもこうやって見ていると自然と笑みがこみ上げてくる。
居場所がまた一つ増えた実感なのかな。
一つ一つステップを踏んで、財部ゆうきが一人の人間として認められていく。
その事を学生証が証明してくれているようで、なんだか嬉しくなった。
学生証を見返しながら、階段を上がって職員室へ。
職員室の戸は閉じられて、中からは話し声がする。職員会議が始まっているようだ。
昨日伝えられたとおりに廊下で立ったまま待っているとチャイムが鳴った。
そのうち戸が開いて先生方がファイル片手に三々五々散っていく。
ちらちらと見ていく先生がいれば、無関心に通り過ぎる先生もいる。
男の先生は見ていく率が高いかな、女の先生は見ない人が多い気がする。
そんな事を考えていたら、工藤先生が現れた。
「おはようございます。
昨日と同じように工藤先生の後を付いて歩く。
今日この後の段取りについて、歩きながら説明された。
先生の後に続いて入って、教壇には上がらずに戸口で待つように。
先生が名前を紹介するので、そこで教壇に上がって簡単に自己紹介。
それから席を指示するので、そこに着席したら君の出番はおしまいだと言う。
席は一番後ろの戸口の前を用意してあります、と追加で教えてもらった。
そんな事を話しかけられながら歩いていたら、もう四組の教室前。
まだわいわいと騒ぎ声のする教室。
それじゃ、行きますよと声をかけられて、工藤先生が戸を開けて中へ。
続いてボクも中へ進む。
戸が開くや否や静まった教室に、先生とボクが歩を進める。
注目が、集まる。
さすがにみんなを見る余裕は、ボクにはなかった。
目線は下に向けて、どうにかこうにか背筋を伸ばして立ってはいるけれど。
ギリギリのバランス。
心臓はさっきからやたらと響いてる。
先生からの紹介が、今終わって呼ばれた。
はいと短く答えて壇上へ。
軽く頭を下げて、そして上げて。ようやく皆の顔を目線に捉えることができた。
少し深めに息を吸う。そして。
「あの、はじめまして。
少し病気をしていて入学式には間に合わなかったんですけれど、今日から皆さんと一緒に勉強できることになりました。
どうかよろしくお願いします」
改めて頭を深く下げた。
ぱらぱらと湧く拍手。次にそれはより大きく響いて。
顔を上げるとみんながにこやかに拍手をしてくれていた。
少し、ホッとした。
「それじゃ、財部さんの席は一番後ろの廊下側で」
先生が打ち合わせ通り席の指示をした。
ボクはそれに頷くと、指示された席に座った。
§
3週ぶりの高校の授業。教科の担任も使っている教科書も変わらなくて、でもノートと筆記用具は真新しくて。授業の方はボクの知っているところからは結構進んでしまっていたから付いていくのが大変だ。
自習して追いつかないといけないのかなと思っていたら、授業の終わりがけに教科の先生に呼ばれる。
「財部さんはどこかな?」
「あ、はい。ここです」
ボクは呼び声に立ち上がって先生の下へ。
「何か用事ですか?」
「いや、君は病欠していたから授業が抜けてしまっているだろう? 四月の小テストも受けれていないし。それで補習のプリントを用意するから今日のお昼休みにでも取りに来て欲しい」
補習プリントという言葉に内心うげっとなったけど、こればっかりは断れない。
顔では平静を保つ。
「わかりました」
ボクはそう答えるしかなかった。
覚悟はしていたけどプリント攻め。いざ実際に自分が受ける身になるとこれほど気力を削いでくれる存在もないんじゃないか、そんな事をつい思ってしまったり。
結局その後も新しい教科の授業が終わるたびに担当の先生から呼ばれて、同じようにプリントの配布を仰せつかることになってしまった。
これが全部の教科で配られるとなると一体どれだけの量になるのか、考えるのが怖くなった。
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