第36話 小話 ゆうきちゃん散歩


 昇降口で工藤先生と別れて、先生はすぐに職員室へ戻って行ってしまった。



 広い校内でボク一人、授業とは関係なく自由な時間。

 よく考えてみたらこんな機会はまたとなくて。


 せっかく来たんだし、まだ時間もあるので少しばかり校内散歩することにした。と言っても先生にバレると多分叱られて面倒な事になるのでなるべくこっそりと。



 今いるところは北校舎一階の一番東端にある昇降口。

 この校舎は三階建てで階段が二か所。階段の間には一般教室が五つ。一階は一年四組から八組までが入っていて、この昇降口の隣が四組になる。


 昇降口を挟んで反対側は一旦校舎が途切れて渡り廊下が続く。

 そちらの方に進むと東校舎へとつながってる。



 東校舎の一階は、渡り廊下からすぐの所に一年三組の教室があって、そこから順に一組まで並ぶ。一組の教室の先には東校舎の階段があって、さらに先には美術室がある。



 そこまで歩いてきたところで、急に景色がモノトーンに変化した。


「なっ……停止時空……なんでここで?」


 急なことでボクが戸惑っていたら。背後から聞き慣れた声が聞こえた。


「ユウキ! アナタこんな所でなにして?……ってあーっ!」


 振り向いた先にはレイアちゃんがいた。


 レイアちゃんがぱたぱたと駆け寄ってくる。

 良く見ると一組の戸が開いてる。そうか、レイアちゃん一組だったんだ。


「それここの制服じゃない。思ったより早かったわね、学校に来れるようになるの」


 満面に笑みを湛えてレイアちゃんがボクの左肩に手を掛ける。


「そ、そうかな……? あの日あれからパパとママにも話をして、そしたらすぐにやろうって事になったから」


 ボクは苦手な感じが抜けなくて。彼女との距離感がまだ掴めない。


「それで。いつからなの? その様子だと今日じゃないわよね?」


 彼女はさらに距離を詰めてくる。顔はもうボクの眼前だ。


「えと、明日から登校、だよ? 今日は事前の打ち合わせとかそんな感じ……」


「そうなの。明日からまた楽しくなりそうね」


 彼女は手を離して腕を組み、うんうん頷いてる。


 いや、彼女の楽しいがボクの楽しいとは必ずしも一緒ではない訳だけど?


「うん……。よろしくお願いします……って言いたいところなんだけど、また前みたいに吹っ飛ばされるのは勘弁して欲しいな」


「なあに、そんな事心配してたの? 大丈夫よ、しばらくは控えておいてあげるから」


 彼女はそんな風に言ってカラカラ笑ってる。

 しばらくってどれくらいなんでしょうか……。



 それからクラス分けとか今の学校の様子とかを話していたら、彼女はそうそうと言いつつ忠告をくれた。


「結局前と同じクラスになったのよね。そうするとさあ、アナタはクラスメイトのことなまじ知ってる訳じゃない? よくよく気をつけないとボロが出るわよ?

 最初は何も知らない風を装わないと。


 それから、ワタシもそうだったけど多分出身の学校を聞かれるわ。アナタどうするか考えてる?」


 レイアちゃんに言われてハッと気がついた。

 ボクの通っていた中学の名前を出すのはマズい事に。


「ど、どうしよう。ボクそこら辺なにも考えてなかった」


 急に心配になるボク。

 そんなボクを見てレイアちゃんがヤレヤレと呆れた風に。


「じゃあこうしたら良いわ。ワタシがかたってる学校にしておきなさいな。

 それで、アナタとワタシはその学校でも仲良くお友達だったって事で、どう?」


「……え。うーん」


 ボクはレイアちゃんの申し出を聞いて悩んでしまう。でも他に良いアイデアがとっさに浮かぶでもなし、それに多分彼女とはこれからもよく話をしたり一緒に行動することが増えるだろう。

 そんなときに同じ学校出身ということであれば、二人のクラスが違っていても違和感を持つ人は少ないと思った。


「……わかった。その話、乗るね」


「そう来なくっちゃね」


 彼女はまたも頬を緩めて答えた。



 彼女はその場でボクの真理録レコードを開いて、高校の情報から出身中学の項目を書き替えていく。そこには『聖ジュリア学園中等部』と書かれていた。


「ところでこの聖ジュリア学園って、何か謂われとかあるの?」


「ぜーんぜん。口からでまかせよ」



 やっぱり彼女は考えているようであんまり考えていないのかもしれなかった。

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