第33話 財部ゆうき、仕掛けをします
そうと決まれば、という事になって、さっそくその場で高校の情報を書き替えるという流れになぜかなってしまって。
パパとママが見守る中でボクは
これ、人の前で開いちゃっても大丈夫なんだろうか……。
「じゃ、始めるね」
パパとママは食卓についたまま、固唾を呑んでボクを見つめてる。
ボクはといえば居間とダイニングの間の定位置に立って鎌を呼び出して。
鎌を空間に置いて、そして開くジェスチャー。
無事にボクの真理録が開いた。
パパがいつの間にかボクの背後に立っている。やっぱりこういうのに興味があるみたいだ。
今開いているのは真理録のボクのページ。一応解説を交えた方がいいのかなと思ったので、ページを開いたまま項目を指し示して簡単に話をしていく。
「これがね、ボクの真理録というもので、ボクの一生のことが書かれてるんだ。本当は人に見せるものじゃないし、人が見れるものでもないんだけどね。今日は特別」
ボクが説明を始めると、パパは身を乗り出してくる。いつの間にかボクの頭越しに真理録を覗き込むような形になっていた。
「それでここがボクの氏名で、次に生年月日、性別、それから生きた期間のできごとがここから分かるようになってて、最後に死んじゃった日付。見ての通り、すごく短いよね」
ボクの真理録の最初のページは、わずかに五行。二ヶ月ほどの記録。
「この死んだ日付でボクの記録はおしまいで、ボクはもうとっくに死んだことになってる。
でも、ボクが今ここにいるのは昔の破壊神がボクに対して何か仕掛けをしていったから。
何を仕掛けていったのかはボクにもレイアちゃんにも分からない。全くの謎だから、それはそういうものとして割り切ってもらうしかないね。
彼女によると、人だけど神、みたいな事は言ってたけど」
パパはずっと黙って聞いてる。
ちょっとふり返ってその顔を窺うと、眉をひそめてやや険しい顔をしていた。やっぱり実の子が死んだという事実をこうやって突きつけられると思う所はあるんだろうね。
「そして、死んだ日付の後に書かれているのが、ボクが高校に在学してるっていう事実。今日はここを書き込んでいくんだよ」
そう言いながら、ボクはその項目を指先で軽くタップする。
表示が切り替わって項目がずらりと並ぶ。お昼にレイアちゃんと練習をしていた通り、この項目ひとつひとつが高校に保管されている情報と直結してる。
「それでねパパ。ここを書き込むんだけど間違いがないようにちょっと見ていて欲しいんだ。あと、ここはこうした方がって言うアイデアがあったらそれも教えて?」
ボクは再び振り返ってパパの方を見ながらお願いした。
パパはそんな僕の顔を見て、固かった顔をほころばせる。
「ああ、分かったよゆうき。パパも見ていてあげるねえ」
こうして情報書き替え作戦の幕が切って落とされた。
パパが言うには学校入学の時には事務手続きの他、事前行事の参加や物品配布、制服購入とかの記録も残るはずだという。そうじゃないと重要な配布物が万が一抜けてしまっていたときに大変だからで、ボクはそういった配布物などをまだ一切手にしていないから、復学するときに問題なく貰えるようにする必要があった。
制服にしてもそうで、直接制服を扱う洋服店に行っても売ってはくれない。学校からの申込書が必要なはずで、それらを手に入れる必要があるとも。
だから入学試験には合格したけれど、何らかの理由でそこから先の行事に参加できず、書類も受け取れていないように装う必要がある。多分一番通りが良いのは病気だったことにするのが良いんじゃないかなとアイデアを出してくれた。
それにしたって保護者すら一切関わってなかったのは多少無理が残るかも知れないけどねえとはパパが笑いながら言うのだけれど。
案外とパパもママのこの作戦には乗り気で付いてきてくれて、必要な情報もスラスラと記入できていく。
最後に一通り確認をして、書類上はこれで良いんじゃないか、という事になった。
「あとはどうやって学校側とコンタクトを取るかだねえ」
先に食卓に戻ったパパがお茶を飲みながらそんな事を話す。
ボクは真理録を閉じて、鎌もいつものようにしまうと、パパとママの間にあるボクの定位置に腰掛ける。
「学校からの連絡を待っていても、いつになるか分からないわね?」
ママが口を挟んできた。
「それはそうだろうと思うねえ」
パパがそう言って返す。
「それじゃ、明日にでもママが学校に電話しようか」
「大丈夫かな?」
ボクは少し心配な顔をした。
「ゆうきちゃんが書いてくれた情報はもう有効なんでしょ? だったら大丈夫じゃないかなって思うんだけど」
「うまく話が進むと良いんだけど」
「まあやってみるしかないわね。後はママに任せておきなさいな」
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