第31話 要するに破壊神のせいでややこしい
「ユウキ……目を覚まして! ユウキっ!」
ボクを呼ぶ声と共に、視覚に光が飛び交った。
それは一瞬で収束して、闇に包まれる。その間も呼びかける声が続く……。
少しずつ感覚が戻ってきた。呼び声もだんだんとはっきりする。
どうやらレイアちゃんの声。
ボクは一度深く呼吸をして、ゆっくりと目を開いていく。
視界に光が戻る。最初は白くぼやけていたけど、徐々に影が現れて、色が戻って、形がはっきりとしてくる。
……色?
目に映るピンク色……声もそこから聞こえてくる。
……ああ、この色はレイアちゃんの髪だね。
そうやって認識ができてくると、あとの回復は早かった。
心配と焦りの色が濃く現れた彼女の顔が現れた。
「……レイアちゃん、ごめんね。もうだいじょうぶ、だから」
目の焦点が合って、周囲の景色もはっきりしてくる。モノトーンの部屋の様子から、さっきまでと変わらず停止時空の中にいるのが分かった。
ゆっくりと体を起こして、ボクはソファーに座り直す。
「……ボク、どれぐらい気を失ってたの?」
まだ心配そうな目をしたレイアちゃんが答える。
「5分ぐらいかしら、正確に計ったわけじゃないけど」
「そう。倒れてただけで他には?」
「他に変わったことはないわね」
そう言いながら彼女は元のソファーに座り直す。
まだちょっとフラフラした感じはあるけど、それも徐々に収まって来つつある。
ボクは話の続きを彼女に促した。
「アナタの中身が女の子のゆうきになったことは話したわね。
それはワタシが
「それで、女の子のゆうきちゃんはそのあとどうしたの?」
「そのままにはしておけなかったから、すぐに真理録をその場で書き直したわ。具体的には復活の項目を消しただけだけどね。
だから彼女が再び現れることはもうないはず」
ボクは顔では平静を装いながら、死んだはずの人がそんなに簡単に復活できてしまう事実に恐ろしさを感じていた。逆に簡単に殺すこともできてしまう。それもボクの時みたいに最初から存在しなかった事にすらできてしまうという事実に。
少し気になった事があったので尋ねてみる。
「ねえ、女の子のゆうきちゃんだけど、それってゆうきちゃんの何が復活したのかな? 魂とか? 心とか?」
レイアちゃんが落ち着いた声で答える。
「それは、魂ね。
ワタシたちの仕事にも関わる事なんだけど。
アナタは破壊神、ワタシは生成神って立場だけど、破壊神の仕事はこの世で死んだ者から魂を取り出して輪廻に戻すこと。そして生成神の仕事は輪廻から魂を取り出して新しく生まれてくる生命に収めること」
それじゃゆうきちゃんの魂が戻ってきたのはどうしてなんだろう。
「それじゃ、女の子のゆうきちゃんの魂が死んで15年経った今でも残ってたって事になるよね? 魂はすぐに輪廻に戻されちゃうんじゃないの?」
「それはねユウキ、アナタの中に破壊神が眠っていて、この15年間破壊神の仕事をする者がいないせいよ」
ボクはようやく自分の身に降りかかった事の重大さに少しだけ気がついた。
「……それってすごくマズい事だよね?」
ボクはおそるおそる聞いてみる。
「すごくマズいわね」
「……やっぱり」
ボクは申し訳ない気持ちでいっぱいになって、俯いてしまう。
そんなボクの様子を見かねてか、レイアちゃんが優しい口調で語りかけてきた。
「……マズい事はマズいけれど、ユウキ、アナタのせいではないものね。誰が一番いけないかって言ったらアナタの中に眠ってる破壊神よ。
正直彼の意図は全然分からないのよね。どうして仕事を放り出してしまったのか、どうしてユウキを選んでその中に隠れてしまったのか。そしてどうするつもりだったのかも」
レイアちゃんは最後の方、やや呆れたような口調でそう言うと黙ってしまった。
このまま話が終わるのかなと思っていたら、まだ続きがあった。
「それでねユウキ、ここからが実は本題なんだけど。
アナタ、学校に戻る気はない?」
そういえばボクが気絶する前に、レイアちゃんがそんな事を言いかかっていたような気がする。
でもボクが光星高校に合格した事実も消えているはずなのにどうするつもりなんだろう。
彼女の意図が掴めずに困惑した顔をしていると、続いて解説があった。
「要するにアナタをワタシの近くに置いて見守ってあげようってこと」
レイアちゃんは堂々とそんな事を言い放つけど、それってボクを監視下に置きたいだけだよね。
正直言いたい事もあったけど、ボクはとりあえずそのまま黙って聞く事にした。混ぜ返すと話がどんどんおかしくなる事は分かっているので。
「アナタの真理録を書き替えたときに、高校の情報にも手を出したのよ。それで少し書き換えをしてたんだけど、結構細かく書かなくちゃいけなくてね……。
ワタシの手には余ったから、それでアナタ本人に続きを書いてもらおうかなって」
それを聞いたボクは呆れるしかなくて。
「高校に戻れるのは嬉しいけど、レイアちゃんの都合でやるんだからそこはレイアちゃんが最後まできちんとやり遂げるのが筋ってものじゃないかな?」
そしたら彼女は困り果てた表情を見せてボクに迫ってきた。
「だってユウキ、私がユウキの細かい事まで完全に知ってるわけないじゃない。
そりゃー、ずっと何年も人知れずアナタの事を監視はしてたわよ? でも限度ってものはあるのよ。
だから、ここは人助けって言うか神助けだと思って、ね?」
なんだか今しれっとすごく重要な事が暴露された気がした。
「あのねレイアちゃん、今、何年も監視してたって言ったけど……」
ボクの言葉を聞いてハッと表情が変わった。レイアちゃんの顔が赤くなる。
「いっ、今のなしっ! 忘れてっ!」
そう言って彼女は真っ赤な顔のまま頷いて、両手で押しとどめるジェスチャーをした。
でもね、忘れてと言われましても……困るよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます