第30話 ゆうきちゃんは説明を求めます
レイアちゃんがボクのすぐ前に立ってる。
しかもここは居間でボクも窓辺で立ったままだ。
確かボクは二階の書斎で本を読んでいたはずで、それで急に眠くなって気がついたら今の状況に。いつの間にここに来たのかもまったく記憶はなくて、しかもレイアちゃんまで家の中にいるのに招き入れた記憶もない。
状況がまったく理解できずに立ち尽くしたままでいたら、レイアちゃんの方から喋り始めた。
「ユウキ、たぶん今アナタは多少混乱してると思うの。今はとりあえずワタシの言うことをよく聞いて欲しいのだけど。良いかしら?」
ボクはコクコクと軽く頷いて返事する。
「良かった。それじゃ確かめたいことがあるのだけれど、鎌を出してみてもらえる?」
「鎌を?」
「そう」
「わかった。ちょっと広いところに移動するね」
ボクは居間とダイニングの間の広いところに移動して。お願いする。
「鎌よ、来て」
ペンダントが光って右手に鎌が握られた。いつもと同じ感触。
「ちゃんと出るようね。ならだいじょうぶかしらね」
レイアちゃんは何かに納得したみたいな口ぶりだ。
ボクは彼女が何を意図してるのか分からないまま。だからどういう事なのか聞いてみることにした。だけどとりあえず鎌はしまっておきたい。
「えと、鎌はもう良い?」
「あっ、うん、もう良いわよ。ごめんね説明もなしで」
鎌をしまって居間のソファーに腰掛ける。
彼女にも声を掛けてソファーを勧めた。
「まあ、レイアちゃんも座ってよ。それで、どういう事か説明、してくれる、よね?」
レイアちゃんがボクの向かいに座った。
ボクは答えを待って彼女の目をじっと見つめる。彼女は目を合わせてくれなくて。なにか言いにくそうな様子。
ボクの方から話の水を向けようかなと思ったら、彼女の重かった口が開いた。
「……実はねユウキ、少しアナタの
聞き慣れない言葉が彼女の口から放たれて、ボクの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
「レイアちゃん、真理録ってなに?」
彼女は少し眉をひそめて悩んでいる様子だったけど。ボクの方を一瞥してから話し始めた。
「……真理録の説明から始めると、ちょっと長くなりそうね。ユウキ。アナタのご両親、いつ頃帰ってくるか分かる?」
急に聞かれたのでボクはちょっとどぎまぎして壁の時計を確かめる。
「えと、あと15分もしたらママが帰ってくると思う」
「……ちょっと時間が足りないわね。悪いけど今ここで停止時空を展開してから話を進めるわ」
停止時空っていうのはあの無彩色空間のことかな、と思っていたらその通りだったようで、周りの景色がモノトーンに変化した。
「さてと、これでいいわね。それじゃ真理録の説明からするわ」
ボクは軽く頷くと、彼女の言葉に聞き耳を立てた。
レイアちゃんによると真理録というのは人の一生の記録のこと。正確には人だけではなくてこの世界に生きるもの全てについて記録されているらしい。データベースみたいなものかな。
神様の真理録というものはなくて、ボクは元々人間のゆうきだったから真理録が存在するという。
そして彼女はボクの真理録を少し書き替えてしまった、ということ。
書き替えた理由を聞いてみた。
「アナタを学校に連れ戻したかっただけよ」
なんともシンプルな答え。
「真理録って結構重要で重大なもののように感じるんだけど……そんな理由で書き替えちゃって良いものなの?」
ボクの問いに彼女は口を尖らせて答える。
「良くても悪くても、書き替えちゃったものは仕方ないじゃない」
いやそれ理由になってないんだけど?
でもこうやって不機嫌になると、彼女は詳しくは話してくれそうになくなると思ったので、ボクは少し話を切り替える。
「書き替えたことは問題ないとして、ボクの記憶のないところで何かが起こってたんだよね? 何がどうなってたの?」
彼女は少し黙っていたけど、おもむろに順を追って話し始める。
ボクを高校に連れ戻そうと考えて、真理録から書き替えようと考えたらしい。そこでゆうきの真理録を見ると生後三ヶ月を待たずに死亡していたっていう記録があった。でもその先は空白のまま。死んだまま空白なのに生きて動いているボクという存在は、この世界に生きる者ではないって事だという。
「それじゃボクが今ここにいるのはどういう訳なの?」
レイアちゃんは腕を組んで少し考え込む。
「これまでに起こったことから推論すれば、アナタは少なくとも人ではないわね。もし人であれば、この停止時空の中では存在できずに消えるから」
「それじゃボクは神様だって事?」
「それも微妙な話」
ボクはますます困惑する。
「身体に関しては人よね、多分ね」
「どうしてそう言えるの」
「真理録を少しいじったって言うのは、ゆうきの真理録に復活を書き加えたのよ。一度死んだ後に続けてすぐさま復活したことにしたの」
「うん、それで?」
「そうしたらアナタは、ううん、アナタの中身が女の子のゆうきに変わっていたわ」
「……なに、それ」
ボクは思わず自分の体を抱きしめる。自分が自分でなくなる恐怖を感じて。
「ワタシは真理録を書き替えた後ここに来たわ。それでインターホンで何度か呼びかけたけどアナタは出てこなかった。だから家に上がり込んで直接対面したの。
そこにいたのは怯えて窓辺に逃げ込んだアナタの姿。そして話をしてみて分かった、アナタの姿だけどアナタではないって」
ボクは自分が今すぐどこかに消えてしまうような感覚に襲われて、それ以上座っていられなかった。全身の力が抜けて、ソファーの上にへたり込んでしまう。
「ユウキ! だいじょうぶ!?」
レイアちゃんの声が辛うじて聞こえた。
でもボクは返事をすることも起き上がることもできずに再び意識を手放した。
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