第29話 わたしはゆうき
ワタシはインターホンのボタンを押した。
ピンポーンと音がする。
……返答がない。もう一度ボタンを押すけど、やっぱり返答はない。
ユウキの気配は感じてるから、家の中にいるのは分かる。
待つのが良いか、侵入するのが良いか。
今は家の中にユウキ一人だけど、もう夕方だからそのうち家族の誰かは帰ってくると思う。そうすると話がややこしくなるから、できれば今ユウキに出てきて欲しいのだけど。手荒なことはやりたくないしね。
ところが一向に動きがないので、ワタシはやや苛立ちながら三度目のボタンを押した。
ようやくユウキの気配が動く。一階に降りてきて、家の真ん中ら辺で止まる。
「はい。どなたでしょう?」
インターホンからユウキの声がした。
ワタシは間髪を入れずに話す。
「ユウキ? ワタシよ生成神よ。気がついてるんでしょうアナタ。ちょっと話があるから出てきてくれない?」
……ユウキの返事がない。
やや間があって、インターホンはブツッと切れた。
おかしい。
ユウキだったら今のやりとりで確実に出てくるはず。
ワタシはなにかが起きたと直感した。
すぐさま停止時空を展開する。そして取り出したハンマーの一撃で玄関のドアをぶち破って。
ワタシは財部家の中に踏み込んだ。
「……いない?」
最後に気配のあった場所まで進んだけど、ユウキの姿はない。
どこかに移動したのかと思って気配を探ってみたけど、どこにもいない。
ワタシは一旦玄関に戻って靴を脱いだ後、停止時空を解除した。
解除したとたんに現れるユウキの気配。停止時空を展開する直前までいた位置にそれは現れた。
ワタシはその場でもう一度停止時空を展開する。
ユウキの気配はまたも消えてしまった。
再び停止時空を解除。
ユウキの気配が戻る。
ワタシはハンマーをしまって、その気配の方へ歩みを進める。
「ユウキ、入るわよ?」
ワタシの声が聞こえたのか、ワタシを避けるように気配が動き出す。
部屋のドアを開け、中に入ったワタシの目に映ったのは、怯えた表情で窓際に立つユウキの姿だった。
二歩、三歩とワタシは歩み寄る。
それに呼応してじり、じり、と後退するユウキ。
「ユウキ、何かあったの?」
ワタシが問いかけるけど、彼女から返事はない。でもその怯えた表情はますますきつくなっていく。
今までのユウキではあり得ない反応。明らかに何かが起きているけど、一体何が。
わからない。
でも、今これ以上彼女を追い詰めるようなことをしても事態は好転しない、そう感じた。ワタシは歩みを止める。
「ユウキ、なにか言って?」
ワタシのその問いに、彼女は震える声でこう答えた。
「あ、あなた、誰ですか? それ以上近づかないで。警察を、呼びます」
その答えにワタシは驚きを隠せなかった。
彼女が再び口を開く。
「せいせいしんって、何なんですか? そんな名前の人は知らないし、あなたの姿も見たことない」
ユウキの目に怯えと拒絶が宿る。
ワタシはできるだけソフトに問いかけを続ける。
「ワタシは生成神、名前はレイアよ。そしてアナタはワタシのパートナーなの。
何も覚えていないの?」
「わたしは
ユウキの口調がいつもと違う事に気がついた。ユウキは『わたし』なんて言わない。でも名前は財部優樹と言った。娘だとも言った。そうすると考えられることは一つ。
今目の前にいるのは男の子のユウキではなく、元々の女の子であるゆうきだ。
「ゆうきちゃん、ね。そうね、あなたはゆうきちゃんよね」
私の言葉に怪訝な顔をするユウキ。
「少しやり方を間違えたみたい。アナタは悪くないけど、元の通り死んでもらうしかないわね」
再び怯えた表情に戻るユウキ。
私はそれに構わず停止時空を展開した。
思った通り、目の前からユウキの姿が消え失せる。
さっきまでいたユウキは一度死んで復活した女の子のゆうきだ。
ワタシが
いつものユウキと違って彼女は普通の人間として生を受けている存在。神と違って停止時空の中には存在できない。
一刻も早く真理録を修正しなければ。
ワタシはハンマーを呼び出して、目の前の空間に置く。
そして本を開くジェスチャーでユウキの真理録を呼び出す。
光る枠の中には先ほどと同じ文字が並ぶ。
ワタシは復活の項目を消去する。これで女の子のゆうきは死んだままになった。あとは高校の部分をどうするか。復活は既に消したのでこの項目に効力が残るのかどうかは分からないけど、とりあえず残しておいて様子をみることにする。
ワタシは真理録を閉じてハンマーも片付ける。
そして停止時空を解除した。
目の前に現れるユウキ。
驚いた様子でワタシのことを二度見する。そして。
「えっ? レイア、ちゃん……。どうしてここにいるの?」
どうやら無事に、元のユウキに戻ったみたいだった。
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