第28話 生成神ちゃんはどうにかしたい


 ユウキと一戦交えてから早四日。今日もワタシは朝から高校生活に勤しんでる。



 ユウキが言っていたように、この学校からユウキの存在そのものが消え失せているのは、昨日少し調べた限りでも簡単に分かった。


 まず一年四組の教室。

 ユウキがあの日座っていた席には全然別の男の子が座っていて、念のために手近な生徒に聞いて確かめてみたけどユウキって子はいないって言われたの。

 そして生徒名簿。

 一年四組13番は別の女の子の名前に変わってて、もちろん財部優樹たからべゆうきの名前はどこにも存在しない。



 ユウキ自身はあの自宅から他に動くことはないとは思うけど、どちらかと言えばワタシの方が問題で、学校生活があるせいで身動きが取りにくい。

 ワタシが秦玲亜はたれいあをやめちゃえばフリーにはなるけれど、それもなんだか面白くないのよね。


 この生活を始めてまだ50日あまり、月の周期でも2周期ほどだけど、なんだかんだと玲亜としての友だち付き合いもできてきたし、学校生活自体もそこそこ楽しいし。なにより見るもの聞くもの実際に体験すると面白いから飽きないのよね。

 だから玲亜をやめようって気は今のところ全くなくて。


 逆にユウキを学校に戻すって手も考えた。


 これなら近くで監視もできるし、隙あらばちょっかいを出しに行くのもすぐ。おまけにワタシの気配がしていても不自然じゃないから警戒される事も少なくなるはず。

 問題があるとすれば上手くユウキをこの学校に潜り込ませられるかってところだけど、玲亜で潜り込んだときと同じようにやればやってやれないことはないわね。


 思い立ったが吉日。ワタシは放課後にその作業をすることに決めた。



§



「ねえねえ、玲亜ちゃん。今日このあと時間ある?」


 全部の授業が終わって作業をしに行こうと思ったら、このところ仲良くなったクラスメイトの一人が話しかけてきた。なんでも駅前に新しいお店ができたとかで、一緒に見に行かないか誘われたんだけど。


「サトミ、ごめんなさい。今日はちょっと用事があるのよ。また今度ね」


 ワタシはにこやかにそう答えた。サトミには悪いけどさすがに今日はパス。こちらも大事な用事があるのだから。



 ワタシは鞄を持って昇降口へ。靴を履き替えるとそのまま校舎裏の人目に付かないところに隠れると、辺りに人気がないのを見て瞬間移動で校舎の屋上へ。


 飛び先は最初にユウキを連れ込んだ場所。


 ここでワタシは持っていた鞄を収納空間に突っ込むと。今度はハンマーを取り出す。そして停止時空を展開した。


 景色がモノトーンになって、喧噪が消えて恐ろしいくらいの静寂が訪れる。


 ハンマーを目の前の空間に、T字になるように。ハンマーの上にワタシが両手をかざすと、それに呼応してハンマーが淡く光る。続いて両手で本を開くようなジェスチャー。四角い光の枠がその中に刻まれた文字とともに現れた。



 財部優樹たからべゆうき真理録レコード



 項目を順に追っていく。

 生年月日……12月生まれ。性別……女。死亡日……2月。

 そこから先は空白。


 元々のゆうきが死んでから後の項目は当然だけど記録されていなかった。

 でもユウキはそこにいる。ということはやはり、今のユウキは世界の埒外らちがいにいる存在ということ。


 そして、破壊神がこの真理録を書き換えていた訳ではなさそうなのは、空白の部分を見るとわかる。書き換えや消去がされるとその痕跡が多少なりとも残るものだけど、この真理録にはそれがない。


 死亡日が確定していて一旦閉じられた真理録。死亡日より前に追記することは本来できない。だから死亡日よりも後に追記する事になる。少し強引な手法になるけれど、復活の項目を入れればいい。


 死亡日時と同時刻に復活の項目を加える。それから今年の春高校入学したことも。


 これまでの15年分を書き加える事もできるのだけど、それをすると影響が大きくなってしまう。なので必要最小限にを書き記すに留めた。


 これだけだと少々大ざっぱなので、もう一工夫するために新しく書き加えた高校入学の部分から学校の持つ情報に入り込む。


 やっぱり優樹の情報は欠片もない。


 細かい所はさておき、優樹の名前と生年月日を片っ端から埋めていく。だけど住所とか家族構成とか分からないところもいっぱいあって、どうしたものかと悩んでいたけどひとつ閃いた。



「これ、本人にやらせれば済む話よね」



 そうと決めれば即実行あるのみ。


 ワタシは真理録を閉じるとハンマーを収納して停止時空を解除して。そして瞬間移動でユウキの自宅前に飛んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る