第26話 破壊神ちゃんはぐれる
ママがお昼にしたいと言い出してボクもそれに同意して、二人でレストラン街の方へ歩いて行く。
いつの間にか人でいっぱいになっている広い廊下。
大きなショッピングモールだけあって、レストランも少し珍しいお店が入っていたりする。そろそろ待ち客が並んでいるお店もあって、早く決めないとお昼にありつくのが遅くなりそうではあって。
二人お店のメニューを見ては次のお店へと、通路に並んだお店を順番に見ていく。
するとママが言った。
「うーん迷うわね。ゆうきちゃんは何が食べたい?」
その言葉にちょっと窮するボク。
例によってボクは空腹感がなくて、別にママの食べたいものならなんでも良かったのだけれど。
「今日はママの食べたいものにしてよ」
「あー、ゆうきちゃん上手く逃げたわねー」
ママはボクのそんな返事でも嬉しそうで。結局中華料理のお店に入る事になった。案の定待ち列が伸びていて、お店の前に並べられたイスに二人並んで腰掛ける。
「ねえゆうきちゃん。ママなんだか楽しくなって来ちゃった」
ママは少し上を向いてそんな事を話し始める。
その横顔は本当に楽しそうな表情で。
「まさかこうやって二人でお買いものに出られる日が来るなんてね。考えてもみなかったから」
「それは、そうだよね」
ボクは一度死んでいるから、それはその通りで。だからそんなママの嬉しそうな声を聞いても、ボクは笑う事も悲しむ事もできずに。
「今日この後もお買いものがあるけど、また一緒に来ようね」
そう言ってママはボクの方を向いた。屈託のない笑顔がそこにはあった。
「うん」
ボクもつられて笑顔になって、少しだけ楽しい気持ちになった。
どうやらボクたちの順番が来たみたい。
店員さんに導かれるまま席に着いた。
§
ご飯を食べたあと、ママはお手洗いに行った。ボクも一緒に誘われたけど行く必要がないので外の通路でベンチに座って待つ事にした。
でもよく考えてみると、トイレに行くフリくらいはした方が良いのかも知れない。そのうちママは僕がトイレに行かない事に気がつくだろうし、そうなったらまたショックを受けちゃうような気がする。いや、もう気付いてるかもしれないよね。
パパやママとこの身体で一緒に暮らし始めて今日でもう三日目。さすがに気付いているのが普通だと思う。その割に何も言い出さないのは、思うところがあってのことなのかな。
そんな事を座ったままぼーっと考えていたら、僕がベンチに座っている広い通路の逆サイドを歩いて行く一人の男の子が気になった。
なんとなくだけど見覚えのある顔と背格好。
彼が通り過ぎたあと、ボクは思わず立ち上がってその背中を追う。
少し距離を置いて歩調を合わせてついて行く。
彼は一人でエスカレーターに乗って上階へ。
ボクも少し遅れてエスカレーターへ。
追いかけているうちに気がついた。彼の正体。
彼は宇佐美君だ。
頭はすごく良くて、スポーツもそこそこ普通にこなす。言ったらスーパー転校生の範疇だったかも。
そんな彼とボクは確か小五の時にふとした事で意気投合して、それ以来ずっとかけがえののない友達だった。そして高校受験。ボクと彼は揃って県内でも一番の進学校と言われる光星高校に合格して、そしてこれもまた奇跡的に同じクラスになった。
ボクがレイアに連れ去られていなくなったあの瞬間、隣にいたのも彼だった。
だから彼の事は間違いっこない。ないのだけど。この胸に沸き上がる不穏な気持ちはなんなんだろう。
なんとなく呼吸がしづらい。胸のドキドキも少し大きい。
その変な気持ちを抱えたまま追いかけて行くと、彼は本屋さんに吸い込まれていった。そしてその瞬間、ボクと目線が交叉した。
ボクのドキドキは止まらない。
でも彼はボクの事を知っているはずはなくて、今は一方的にこちらが追いかけてる。追いかけるのを止めれば良いのだけど、どうしてか止められない。
そしてボクもその本屋に入っていく。行く宛はないのだけど。
彼の様子を窺いながら、ゆっくりと本屋の中を一周。
そしてふと、我に返った。
何してるんだろうボク。
ママがお手洗いから出てくるのを待ってたはずなのに、宇佐美君を追いかけてこんな所まで離れてしまった。
§
ボクは急いで元いたお手洗い前の通路に戻る。
ママの姿はそこにはなくて、仕方がないからさっきと同じように座って待っていたら、ボクの名前を呼ぶ店内放送が流れた。
『~♪、……市からお越しの、
やっぱりママがボクの事を探してた。
急いでインフォメーションへと歩き出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます