間話の4 やっと会えたわ破壊神……ちゃん?
彼の反応はここまでと同じですごい塩反応。
もうワタシの方も話を続けるのに疲れてきてしまって、やりとりが結構いい加減になってしまう。
だんだんと売り言葉に買い言葉みたいな事になっちゃって、話があらぬ方向に進んでいく。彼はとにかく破壊神になるのが嫌らしくってさっきから言い訳ばかりだし、ワタシはワタシでなんだか焦っちゃって思わず語気もキツくなる。
そんな感じでやりとりしてたら彼がポロッと口にしたの。
「あなたみたいに特別な力が使える訳じゃないし……だから、破壊神なんてムリですよね?」
力? そうか、彼は自らに力がないと思い込んでるのね、だから大役は務められないってそう思ってたんだ。
けどね、アナタは忘れてるだけなんだよ。だから、これさえあれば全てを思い出して力も戻るはず。
ワタシはアレを取り出すべく、右手を大きく広げて彼に言った。
「力、力ねえ? 力に関しては問題ないわ。アナタが力を出せていないのは道具がないからだもの」
ワタシは収納空間につなぐために停止時空を展開する。そして右手に収納空間を呼び出す。
右手に集まる力。
力がまとまったところでそのまま彼の目の前に差し出すと、破裂音とともに力が解けて鎌が現れた。
驚いて身構える彼。
そして。
「それがアナタの道具、鎌よ!」
ワタシの声が高らかに響いた。
「え、鎌?」
彼は何が起こったか分からなかったようだったけど、すぐに気がついたようで。
ワタシは彼がそれを認識したところで、鎌について説明をする。
説明はしたけれど、彼はまだぐだぐだ言っている。そろそろいい加減にして欲しかったから、遂にワタシが切れた。
「うるっさいわねえ。そんな細かい事はどーだっていいのよ! さっさとその鎌を手に持ってちょうだい」
だってちっとも話が前に進まないんだもの。仕方ないわよね?
そして彼がようやくおずおずと右手を鎌に伸ばす。
鎌にその指先が触れたと思った瞬間、ワタシも予想してなかったことが起きた。
鎌から真っ黒なリボンが湧き出ると、彼の手にどんどん巻き付いていって、とうとう身体全体を包み隠してしまった。でもそれだけでは留まらなくて、リボンの量は増えていくばかり。
ついに黒いリボンの大きな球が彼のいたところにできあがってしまった。
でも、鎌本体は変わりなく球の前で浮かんでいた。
体感だと1時間、いえ2時間くらいかしら。光の反射がほとんどない真っ黒な球体は最初の場所から一つも動かずに、また形も色も変わらずにそこに浮かんだまま。
中の様子は一切窺うこともできなくて、こんな状況になるとは私も思ってもみなくってただ待つのみだったの。
§
「外に、出して」
ボクがそう言ってから二拍ほどの間があって、目の前の空間に光の点が現れた。
光の点は一気に縦一文字の線となって、まさに空間に裂け目ができたみたいになる。裂け目は僕の身長くらいあるんだろうか、見る間に裂け目全体から白き光がわき出してきた。それとともに空間全体も眩い光でいっぱいになって、ボクは目を開けていることができなくなった。
目を閉じていても周りの光は感じていたけれど、あるときからそれが急速に消えていったと思ったら、肩と胸元に何かが当たる感覚があった。
そして女の子の叫び声が 目の前で起こった。
§
「なななななな、なによこれーーーーーーっ!!」
目の前にはユウキの顔、そしてその下にはものすごく自己主張の強い二つの肉の塊。ワタシはそこにあるはずのない存在を目の当たりにして混乱の極みに至った。
どこからどう見てもそれは女性特有のバストそのもので、しかも認めたくはないけど結構大きい。思わずワタシの胸と見比べてしまうけど、明らかにユウキの勝ち。勝ち負けとか関係ないけれど、それでも男のユウキに負けてしまったのはかなり悔しい。
というかユウキは男だったはずでしょ。なんで女の子のバスト乗っけてるの? よく見てみると衣装も男の子っていうよりは女の子だし。え? なんでなんでなんで?
なんて半ばパニックになっていたら、そこにユウキの言葉がかけられた。
「あの? 生成神、さん?」
相っ変わらずなんとなくのんびりした声。しかももうすっかり女の声だし。
混乱したワタシの心を逆なでするにはそれは十分で、またもワタシはさらに語気を強めて彼に迫る。
「アナタ! 本当は女だったの!? よくもワタシを騙してくれたわね!」
「ぼ、ボクは男ですよっ! リボンに包まれたらこんなになっただけでっ!」
とっさに言い訳なんてして来るけどもう充分。一時は守ってあげたくなる系の優男な破壊神もいいかななんて思ったけど、これはどう見ても女。それじゃどうしようもないじゃない。
だから、これはここでリセットしないとダメよね。
ワタシはユウキから少し距離を置いて怒号を放つ。
「そんなかわいい声出してるヤツが男の訳あるかっ! そこに直りなさいっ! 輪廻に還してあげる!」
放つと同時に右手を振り上げ、ワタシのハンマーを呼び出して体重も掛けて一気に振り下ろした。
コーーーン。
堅い木を打ち合ったような甲高い響きが広がって、生き物に当たった時とはあきらかに違う手応えがワタシの右手に広がる。
その感触に驚いて目を見張ると、ワタシの目の前でハンマーを受け止めていたのは彼の鎌だった。
鎌はユウキを主と認めてる!?
ワタシはその事実に気がついたけれど、それでもなお攻撃の手を緩めない。リセットするなら今しかない、ユウキが完全に破壊神に目覚めてしまう前に手を打たないと力が拮抗して倒せなくなるから。
ワタシはもう一度ハンマーを打ち据える。
今度はユウキ自らが鎌を持って防いでしまう。
そんな! もうユウキは鎌を使いこなせるっていうの?
時間が経てば経つほどリセットは難しくなる。
彼が周りの様子を窺っている。
そのちょっとの隙を突いて、ワタシは三回目のハンマーを振り下ろした。
でも、
そして次の瞬間、彼はそこから消えていた。
瞬間移動!? まさか?
ワタシはユウキを見失ってしまった。
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