間話の3 ワタシってコミュ障?


「このクラスにユウキって子がいるのは調べが付いてるわ! 出しなさい!」


 ……ついにやっちゃった。もう後戻りはできそうにない。


 恥ずかしさにまみれているのを悟られないように、胸を張って堂々とした態度でその場に立ったまま、教室の中全てに目配せをする。


 ……でも、名乗り出てくる者はいなかった。


 ワタシの声でフリーズした教室だったけど、それもそう長くは続かない。みんなが動き出す前に、ワタシは次のステップに移った。


「ちょっとアナタ! ユウキって子はどこ? 教えなさいっ!」


 戸口から一番近い席に座っていた男子生徒の胸ぐらを掴んで、前後にぶんぶんと揺する。この人には悪いけど、これも演技の一環。

 あんまりシェイクしすぎてこの人が死んじゃっても困るから、当然パワーは控えめに。でもさすがにこれ以上はマズいかなと考え始めたタイミングで、名乗りを上げる声がした。


「あの、優樹ゆうきは僕ですけど、あなた誰ですか?」


 きたーっ。



 ぶんぶん揺すっていた手を止めて、彼の方を向く。


 一呼吸置いて手を離すと、ワタシは喜びのあまり彼の目の前に……瞬間移動してしまった。


 次の瞬間、彼の目に怯えた光が差したように感じた。さらに一拍置いて周りの生徒たちもワタシの移動に気がついたのか、騒ぎ始める気配が流れてくる。ええい! もうこうなったら一気にカタを付けるしかっ!

 ワタシは満面の笑みと共に彼の両手を握って、


「やっと見つけたわ。ワタシのツイになる存在」


 って、彼に向かって囁いた。

 囁いたつもりだったけど結構周りには聞こえていたようで、周りの視線が本格的に集中してくる。


 当の彼はと言えば無言のまま驚いて見開いた目をしてる。ワタシもつられて真顔になってしまって。

 さすがにこのまま注目を浴び続けてると、ワタシの恥ずかしさも限界を迎えそうだったから、人目の付かない場所に移動することにした。とりあえず屋上でいいか、そんな事を考えつつ。


「ここじゃ人の目があるから、アナタこっちに来なさい」


 そして彼と共に教室の真上の屋上に瞬間移動したの。

 元いた教室の方からは騒ぎ声が聞こえてきてる。そして目の前の彼は目を強くつむってる。ワタシは彼の恐怖心を和らげようと思って声を掛けた。


「はいはい、ここなら誰もいないし危なくないから目を開けなさいよ」


 彼がこわごわ目を開ける。そしてそのままキョロキョロと目だけ動かして辺りを見回してた。

 ワタシはその時もう握っていた彼の手を離していて、彼の目の前ですっくと立っていたのだけれど。そのうち彼の目線がワタシに固定されて、そしてだんだんとその瞳に力が入ってくるのが分かったの。

 あまりにもじっと見つめて来るものだからワタシは照れくさくなって、つい大きな声を出してしまった。


「なっ、なによアナタ! さっきからワタシの顔無言で睨みつけてっ!」


 急にワタシが怒鳴りつけちゃったものだから彼はすっかり萎縮しちゃったみたいで。


「い、いえっ。睨みつけてなどいません」


 なんて、あーもう完全に怯えちゃったじゃない。本当はこんなはずじゃなかったのに。もっとソフトにおとなしく事を進めるはずだったのに、どうしてこうなったの?

 こんな展開にしちゃった自分が情けなくて許せなくて、ここからリカバリーなんてできそうにないわなんて半分諦めて。なんだかいらついた気持ち。


 そんな事を感じながらいたら、彼の方から声が掛かったの。


「あ、あの」


 ……やっぱりまだ怯えてるわね。

 そうよね、いきなり現れて大声で呼び出されて、あげくの果てに瞬間移動で校舎の屋上に拉致とか、もしワタシが彼だったら間違いなく警戒するもの。なんて自責の念に駆られてたものだから。


「なによ?」


 なんて、これまた不機嫌そうに返しちゃうし。そろそろ自分のことが嫌になってきた。ため息とかついてみたりしていたら、彼が割と唐突な感じで話を振ってきた。


「あなた、お名前は?」


 なんて聞かれちゃったものだから、ワタシも思わずバッサリと返しちゃった。


「へ? 何アナタ、ワタシのコト忘れちゃったの?」


 ……よく考えなくても彼はワタシのことは何も知らない。なんでこんなことを口走っちゃったのかわかんないけど、言ってしまったものは仕方がなかった。

 もしかしてワタシってコミュ障なのかしら。

 

「い、いえ、忘れるとかそういう以前に、ボクあなたの事知らないし……」


 彼は頬を軽く掻きながら、済まなさそうな顔をする。

 もうその表情が可愛らしいんですけど。凜々しい大人の破壊神はかっこよかったけど、幼くて守ってあげたくなる系の破壊神というのもまた違った魅力で。


「……ああ、やっぱりアナタ記憶がないのね」


 と、少し残念そうな顔で返したのだけれど。そしたら今度はなぜだか胸を張って精一杯背筋を伸ばしてこう答える彼。


「記憶? 記憶ならありますよ、ボクの名前は財部優樹たからべゆうき、光星高校一年四組13番」


 ああ、この勘違いの感じがもうどうにももどかしくって。でも、もうちょっとしっかり言ってあげた方が良いのかも知れない。ワタシは彼に破壊神としての自覚を持って欲しいのだ。だから、わざときつめの態度で接する。


「ワタシはそんな事言ってるんじゃないのよ! アナタ、破壊神としての記憶はないでしょ?」


 ワタシは右手の人差し指をびしっと突き立てて彼に向け、諭すような態度を見せた。

 これには彼も驚いたようで、ワタシの次の言葉を待っているようだった。だからワタシは破壊神とはなんなのかから手短に説明していく。

 破壊神とはこの世に生きる全てのものを輪廻の輪に還す存在。そしてワタシは生成神、彼と対になる存在。そうやって分かりやすく説明してあげたつもりだったのに、彼から返ってきた言葉と態度はなんだか気の抜けたものだった。


「生成神……さんですか」

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