間話の2 玲亜の春はまだ遠い
そして、この星の暦で4月という周期に入った。
「
「はい、ワタシはいつでもオーケーよ、お母さん」
「よし、それじゃ出るか。二人とも車に乗ってくれ」
この二人はワタシの父と母。といってもかりそめの。
ワタシは玲亜という15歳の女の子になりすまして、この一家に潜り込んだ。
割と適当に選んだつもりだったけど、なかなかどうして立派な家族。父は不動産関係の仕事をしていて、社員十数名を抱えるオーナー社長。そして母の方はその会社の経理担当で、二人とも結構忙しい人たち。
今日は末娘(ワタシのことだ)の高校入学という事で、忙しい中だけど母が式に参列してくれることになっている。そして父は学校まで車で送ってくれる、という訳。
立派な黒塗りの車の後部座席で母と並んで座ってる。父は運転席。学校までは15分くらいで着くらしい。
車は他の車を掻き分けてスイスイと順調に走って行く。というかよく見ていると他の車が少し遠慮してるようにも見えるけど。
そしてだいたい予定した時間に校門前へたどり着いた。
ワタシと母が相次いで車から降りる。
「玲亜のことをよろしくな」
「だいじょうぶですよ。お父さんこそ安全運転でお願いしますからね?」
「分かってるって。それじゃ」
ささっと言葉を交わすと、父は仕事に向かった。
父と母はあまり無駄な会話をしない。しないけれど意思の疎通は確実で、よほど相性が良いのか感心するばかり。見ているとケンカのひとつもしないので、お互いによほど人間ができているのかなんなのか。
ワタシと母は入学式の会場に貼り出されたクラス分け表を確認する。
一年一組27番、
それがワタシのこの学校での
一年四組13番、
「玲亜ちゃん、何組だった?」
母がワタシの後から尋ねてきた。
「えーとね、あ、あった。1組よ。知ってる子は……同じクラスにはいないみたい」
「そう、それはちょっと残念だったわね」
知っている子なんてワタシにいるわけはないのだけど、優樹以外には。でも優樹はワタシのことをまったく知らない。
クラスが違うので会うのはなかなか大変かもしれないけど、なんとかなるだろうと甘く考えていた。
§
学校が始まって数日が過ぎた。ワタシのいる1組の教室は校舎の一番端っこで、優樹のいる4組は同じフロアの真ん中らへん。
そんなに離れてはいないはずなのに、いざ顔を見に行こうと思うと案外とその時間がない。そう、高校生というのは思ったよりも忙しかったの。
朝は8時45分から授業が始まる。この星の時間で45分間授業が続いたら、休憩が10分。このペースで4回授業が終わるとお昼休み。
お昼休みは12時15分から12時55分まで、それから掃除を20分。午後1時15分からはまた授業があって、日によって2回、または3回。
一番遅くまで授業があると、終わるのは3時50分。
授業の間の10分休憩はほとんどが教室移動に費やされてしまって、優樹のことを見に行く時間なんてまるでない。
放課後の優樹はさっさと帰ってしまうのか、気がついた時には教室からいなくなっている。部活動に入っているとも聞かないので、たぶん学校が終わるとまっすぐ家に帰っているのだと思う。
そんな毎日が30日ぐらい続いて五月の周期に入ってしまった。
五月は前半にお休みの日が固まっていて学校のない日が続く。ワタシは生成神の姿で優樹の自宅近くまで行って彼の様子を探ってみたりもしたけれど、玲亜の姿に戻して彼の家を訪れるわけにもいかなくて、悶々とする日々を送っていた。
そして5月のお休みの日が終わって最初の登校日。ワタシは満を持して優樹の前に現れることにしたの。
今までの30日間で分かったことは、優樹を捕まえるチャンスはお昼休みにしかないって事。上手くやらないと逃げられてしまうから、人の目も利用して
四限目終了のチャイムが鳴った。
ワタシは先生退室と同時に廊下に躍り出ると、そのままソッコーで4組の前に瞬間移動。そして戸口の隙間から教室の様子を窺う。
ラッキーなことに少し授業が長引いてるようで、まだ全員が教室にいるよう。
緊張してさっきからドキドキが止まらない。心の準備はできてたはずだけど、やっぱりいざとなると弱いものね、なんて思っていたら先生が引き戸を開けて出てきた。それと入れ替わるように戸口を塞ぐように仁王立ちしたワタシは、息を深く吸って全員に聞こえるような大声で彼のことを呼びつけた。
「このクラスにユウキって子がいるのは調べが付いてるわ! 出しなさい!」
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