第23話 破壊神ゆうきちゃん
パパがママの介抱を続けてる。
ママの顔色はさっきに比べたらだいぶ戻ってきたみたいだけど、まだショックが残っているようで背もたれに身体を預けたまま、なんとなくだらりと力が抜けている。
一方ボクは所在なく自分の席に座っているだけで、なにかすることもできずにいた。
食べ終わった食器を片付けるのもなにか違うような気がしていたし、パパを差し置いてママの介抱に行くのも。
そうこうしていたら、ママも落ち着いたのか席に座り直して少ししゃんとする。パパも自分の席に戻った。
二人の視線がボクに注がれた。
なんとなく気まずい雰囲気が漂う。パパもママも口火を切らないので、ボクの方から話を振るしかないようだった。
「……あの、まだ続きがあるんだけど、二人とも聞く?」
ママが黙ったまま首を縦に振った。それを見てパパも首を縦に。
それじゃあ、という事でボクは続きを話し始めた。
「えと、どこまで話したっけ?」
「ゆうきがどこかの家に突っ込んでめちゃくちゃにしちゃった、とかだねえ」
パパが落ち着いた声で助け船を出す。
思い出した。レイアに追いついたところでハンマーで殴られてそのまま墜落したところだった。
「そうだった。どこかの家に叩き落とされちゃって、その家はめちゃくちゃに。ボクはそこから脱出して、一旦上空に飛び上がったんだ。
それで地上を目で見て探していたらレイアの影を見つけて、そこに向かって急降下したんだよ」
二人はひとことも話さずに、ボクの話を聞いている。
ボクはそのまま話を続けることにした。
「急降下して、あと一拍で彼女にもう一撃ってところで避けられちゃってね。それでボクはブレーキも間に合わずにそのまままた家の屋根から突っ込んじゃって、その家の一階の床下まで落っこちちゃったんだ。もちろん身体は無事だったんだけど。
でもそこでママから借りてたワンピースが破れちゃって。それで悲しくなっちゃって。
ボクがここで倒されて消えちゃったらパパとママがすごく悲しむねって思ったら、逆になんでボクがこんな目に遭わなきゃいけないのって腹が立ってきて。怒りに任せて気がついたら彼女を捕まえて首にあの鎌を突きつけて静止してた」
そこまで話したら、ママが聞いてきた。
「でもゆうきちゃん。今着てるの、それってママが渡したワンピースよね? 破れちゃったんじゃないのかな?」
「それは、破れちゃったんだけどボクの力で元に戻したから」
ママが不思議な物を見る目で見てきた。
ボクは衣装について説明してみた。
「ママはまたビックリしちゃうかも知れないけど、ボクがお願いすると衣装を替えたり僕自身の姿形を変化させたりできちゃうんだよ。ちょっとやって見せるね」
ボクはまた立ち上がって、さっき鎌を出した辺りに立つ。
そしてお願いを口にする。
「優樹の制服に着替えたい」
着ていたワンピースがリボン状にほどけて、昨日着ていた優樹のワイシャツとズボンに姿を変えていく。
パパもママもじっとボクの方を見ていて、なんだか少し恥ずかしい。
ゆうきの身体のまま優樹の男子制服なので、昨日と同じくちょっと胸元の張りが気になった。
「こんな感じで着替えられるんだよ。それじゃ今度は破壊神の姿に変わるね」
ボクはそう言って、破壊神ユウキの姿をお願いした。
制服がほどけて破壊神の衣装に変化していく。同時にボクの身体も変化して行くのが分かる。
変化が終わって最初に声を上げたのはママだった。
「ゆうきちゃん、すごい! なんだかかわいいねそれ」
「え?」
まさか褒められるとは思っていなかったのでびっくりした。
「髪の色グリーンだし。そのポニーテール留めてる髪飾りがかわいいわ。衣装も黒でキレイだし。こんなかわいい姿で戦ってたの?」
「え? え? そ、そうだけ……ど?」
「破壊神なんて言ってたから、もっと怖ーいの想像してたんだけどね。かわいいなぁ。さすがはゆうきちゃんね」
なんだかよく分からない感覚で褒めちぎって来るママ。
ボクはそのペースに完全に飲まれちゃって、だんだん恥ずかしくなってきた。
「ねえゆうきちゃん。その姿でさっきの鎌、出して持ってみてくれないかな?」
「へ?」
変な声が出た。
さすがにママがここまでノリノリになるとは思ってもみなくて。でもすごく楽しそうで断ることもできないし。ボクもママの子供だから楽しいのは好きだし。
そんな訳で今一度鎌を出して右手で握った。
「わあ、今度はかっこいいねー」
いつの間にかママの左手にはスマホが握られていて撮影会が始まっていた。モデルはもちろん破壊神の格好のボク。
パシャパシャと写真を撮りまくるママの横で、パパは食卓でイスに座ったまま苦笑いを浮かべてる。
そしてボクはと言えば、ママのリクエストで色々なポーズを取るはめに。
鎌が変なところに触れちゃわないようにポーズを取るのが大変なんだけど。
結局ボクの話はそこでなし崩しに終わっちゃって、髪を短くしたかったこととかトイレのこととかを話す事ができないままその日は終わってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます