第22話 起こったことを包み隠さず
「本当に、よく帰ってきてくれたね。ゆうき。もうどこにも行って欲しくはないねえ。無理なお願いかも、知れないけども」
ボクはそのお願いを、じっと聞いているしかなかった。
パパに手を握られてそのまましばらくそうしていたら、ダイニングの方から呼ぶ声がした。どうやら晩ご飯ができたみたいだ。
§
「いただきます」
今日の晩ご飯はお刺身の盛り合わせ、キュウリとツナ缶の酢の物、ナスとがんもどきの炊き合わせに三つ葉とお麩のお吸い物、それからご飯とお漬け物。
おいしい。
三人それぞれに箸を進める。
箸を進めながら、ママから提案があった。
「ゆうきちゃん。明日はママのお仕事ないから一緒に買い物行こうか」
突然話を振られてきょとんとしているボクに、ママがたたみかける。
「ほら、ゆうきちゃんの服も全然ないし色々揃えないとね? いつまでもママのを貸しておくわけにもいかないし。
それにもっとかわいいのが似合うと思うのよ」
そうやって話すママの顔、なんだかとても楽しそうで。
「うん、いいよ。行こう」
その楽しそうな様子にボクもついついつられて。
ママはそれで良いとして、パパはどうするんだろう。少し気になったので聞いてみる。
「パパはどうするの?」
急に話を振られて焦ったのか、ちょっと急いで食べかけを飲み込んで。
「ん? パパは家にいるよ。やる事があるしねえ」
そうしたらママから解説が入った。
「パパは小説書くのよね?」
「んっ、そ、そうだねえ」
ママのツッコミに虚を突かれたのか、言いどもる。
あのノベルだけじゃなくて、今も書いていたんだね。今はどんなのを書いているんだろう、少し気になった。また読めることはあるのかな。
「パパの作品また読ませてね」
「ああいいよ。今度読めるように準備しとくねえ」
そんなたわいもない会話を交わしながら、二度目の晩餐は過ぎていく。
そして三人がおおかた食べ終えたとき、僕は今日起こったできごとを二人に話し始めた。
「えーと、それじゃボクからは今日お留守番中に起こったことを話すね」
ボクのその言葉を合図に、パパもママも聞き入るように居住まいを正す。
「パパの書斎に入り込んで小説を読んだのは話したし、郵便屋さんが来て書留置いていったのももう伝わってるし……、それで洗濯物を取り込んで畳み終わってから先の話。
あ、ママ、洗濯物言われたとおり二階のベッドの上に畳んで置いといたからね」
「はいはい、ゆうきちゃんありがとうね」
ママが笑顔で答えた。
それを見てボクは続きを話していく。
「それで畳み終わった後に起きたことなんだけど……」
ボクはそれから、生成神がうちまでやってきたことを伝えた。無彩色の世界で戦ったことは、特別な空間でと言い換えて。それで無事に撃退に成功して生成神は帰って行ったことも。
「撃退したって言ったけれど、そんな簡単なことじゃないよねえ? それにゆうきはどうやって戦っていたんだい。もうちょっと詳しく聞かせてくれないかい」
パパが真剣な面持ちで尋ねてくる。
ママも心配そうな顔だ。
「生成神、レイアって言う女の子なんだけど、彼女はとにかくすごい力でハンマーを振り回してくるんだ。で、ボクの方もそれに対抗するために鎌を持っていて」
そこでパパが口を開く。
「鎌? どんな鎌か見せてもらえるかな」
ボクは現物を見せようかどうしようかちょっとためらったけれど、パパとママのとても心配そうな顔を見て心を決めた。
「わかった。ここじゃ狭いからちょっと居間の方に移動するね」
ボクはそう言うと席を立って、ダイニングと居間の間で少し空いている場所に移動した。パパとママは食卓のイスに座ったままこちらを注視してる。
ボクは右手を斜め下向きに構えて、鎌が現れても周りに当たらないようなポジションに着く。そして。
「鎌よ、来て」
ボクのお願いの言葉に呼応して胸元のペンダントが白く光る。
次の瞬間には軽い風圧とともに、ボクの右手には青黒い稲妻のような姿で鈍く輝く破壊神の鎌が握られていた。
驚いた表情を隠せないパパとママ。
「パパ、ママ。これがボクの武器。破壊神の鎌だよ」
しばらく無言のままの三人。
パパもママもなにも言わないので、そろそろしまおうかなと思ったらパパが立ち上がって鎌の方に歩み寄る。
「パパ、触らない方が良いよ。何が起こるか分からないから」
鎌に伸ばしかかっていた手が、ボクの言葉を聞いて慌てて引っ込んだ。
「鎌のことは実はボクにもまだ詳しいことは分からないんだ。
昨日も話したけど、学校の屋上でレイアと一対一で話していたら、彼女が出してきたのがこの鎌。
これを手に取ったらリボンに巻き付かれて、そうしたらボクは女の子になってた。
昨日レイアの攻撃をかわしたのもこの鎌のおかげ。これがなかったらボクは今ここにいなかっただろうと思う。多分」
「今日も、この鎌で戦ったんだね?」
パパが腕を組んだまま、鎌の刃を見ながら尋ねた。
「うん。おうちの上空にレイアが来てて、ハンマー片手に突っ込んできたからとっさにこれを出して防いで。でもそのあと横からハンマーが当たって吹っ飛んだけどね」
「吹っ飛んだって、それでゆうきちゃんの身体は大丈夫だったの?」
ママがすごく心配してる。
「大丈夫だったよ。ケガひとつしてないし。
それに全然痛くもなかった」
それでもママの心配そうな顔は直らない。
パパも僕の顔を見つめてる。
どう理解したら良いか悩んでるのかな。
「ゆうき、それで吹き飛ばされたあとどうなったか続きを聞かせてくれないかい?」
パパが落ち着いた声で促してきた。
ボクはなるべく落ち着いた声で続きの話をする。
「うん。吹っ飛んだあと一旦距離を取って、それから反撃に出たよ。ビュっと飛んで距離を詰めて、次の一瞬には鎌で振り抜いて。そしたら今度はレイアが吹っ飛んで。
その吹っ飛んだレイアを追いかけて行ったんだけど、追いついたところでまた反撃されて、今度はボクがどこかの家に突っ込んでめちゃくちゃに壊しちゃって」
そこまで話して気がついたけど、ママの顔色が青くなってきたみたいだ。このまま話を続けるとちょっとマズいような気がしてきた。
「ねえパパ、ママ大丈夫かな? 顔色悪くない?」
ボクの問いかけでやっと気がついたのか、パパがママの方を振り返ってそのまま近寄った。
二言三言話している。ママはどうやら大丈夫と言っているみたいだけど。
この先を話すにはもう少し時間がいるみたいで。
ボクは鎌をしまって食卓の自分の席にもう一度座った。
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