第19話 大変なことに気がついた


 レイアと喋っている間あまり気にしていなかったけど、二人が浮いていた高さは二階の屋根ぐらいの高さだった。だから今、ボクのこの派手な姿も地上から丸見えになっている。

 でもここで服を替えるわけにも行かないので、とりあえず高度をうんと取って目に付かないところまで飛んだ。


 そういえばおうちのベランダの窓は開けっ放しで出てきていた。そっちも早いところなんとかしなければならないと思って、急いで家の方へ空を飛んでいく。問題は最後の着地なんだけど……、さっきレイアとの戦いで無意識のうちにやっていた瞬間移動。短距離だったけど初めて自力で成功したので、あれをもう一度できないか試してみることにした。


 あの時は見える範囲で移動したから、自宅上空から見えるベランダに向かって移動するくらいならできるような気がする。

 ボクは空高いところから地上をくまなく探して自宅の場所を見つけた。そして目をこらしてバルコニーに意識を集中してみる。


 瞬間、視界が加速した。


 もうベランダの少し上に到達していた。いともあっさりと成功してしまってなんだか拍子抜けなのと、ボクの中に潜む破壊神の力が割ととんでもない代物なんじゃないかと心配になる。


 着地して周りを見ると確かにボクのおうちのベランダだったけど、窓は閉じていた。

 あれ? あの時確かに開けて外に出たはずだったのに。

 窓を開けたときは無彩色の世界になっていたから、その時に動かした物は元に戻ってしまうのかも知れなかった。

 ということは……。


「やっぱり、鍵も掛かってるし……」


 窓の鍵がしっかり掛かってしまっていて、中に入ることができなくなっていた。

 とはいうものの、いつものようにお願いすれば簡単に鍵は開いちゃうんだけどね。


 そんなちょっとしたトラブルがありつつも、破壊神の服のまま家の中に入って窓の鍵を閉めた。寝室の時計で時刻を確認してみたら、お昼1時前。


 レイアがやってきてあの無彩色空間にとりこまれたのが12時半頃で、それからレイアが帰って世界が元の色を取り戻してから僕がここに戻ってくるまでの時間を考えると、やっぱりあの空間では時間が止まっているみたいだ。


 考えてみるとレイアの使っている力は徐々にだけど僕も使えるようになってきている。空を飛ぶことに瞬間移動、多分姿を変えることはレイアもできるのだろうし、そう考えるとあの無彩色空間もボクの力で生み出すことができるようになりそうだ。


 なんてつらつらと考えていたら時計の針は1時を回っちゃっていた。


 ボクはお願いをして、破壊神の派手な衣装を今朝着ていたワンピースとソックスに変化させる。今度はもちろん中のパンツも忘れない。スカートだから忘れたら大ごとでもあるんだけど。


 洗濯カゴを持って一階に降りる。カゴは洗濯機の前に置いておいて。それからダイニングへ。


 でももうお昼をとっくに過ぎて、おまけにあんな戦いまでこなした後だというのに、ちっともお腹の空いた感じがなかった。さすがにこれは少し変だ。それによく考えてみたら、もっと重大なことに気がついた。


 昨日からトイレに一回も行っていなかった。


 だって漏れそうな感覚がちっともなかったのだから仕方がない。あれこれありすぎてボクもすっかり忘れていたし。

 そして忘れていたことを思い出したので、今度はトイレが気になってきた。とはいえ出したい感覚は相変わらずないのだけれど。


§


 そんな訳でしばらくトイレに籠もってはみたものの、なにも出ることはなくて……。


 今までこの身体はゆうきちゃんのものだとばかり思っていたけれど、どうやらそうとばかりも言えなくて、実はもっと秘密が隠れていそうだった。

 それにトイレのことがこうなら、肌や髪ももしかしたら傷むことはないのかもしれない。レイアと戦ってあちこちの家に突っ込んだけどかすり傷ひとつしなかったし、もっと肌も汚れていても良いはずなのに、どこをどう見たって汚れひとつ付いてない。


 そして、ボクはお昼ご飯をどうしようか、食べるべきか食べざるべきか悩むことになった。

 食べても別に問題はなくて。食べなくても別に問題はないけれど、食べてないことがママに分かっちゃうと多少面倒なことにはなりそうで。食べないことにメリットがあるとすれば料理と後片付けの手間が省けるぐらいの話。

 なので結局何か作って食べることにした。


 といってもボクが作れる料理なんて知れていて。朝ママに言った通りにインスタントラーメンを作って食べていた。


 具は冷蔵庫で探し当てたもやしとハム。ダイニングテーブルに一人で座ってツルツルと啜り込む。


「味覚はちゃんとあるんだよね」


 殴られても突っ込んでも落っこちても痛みの感覚はなかったけど、昨日の晩ご飯といい、今朝の朝ご飯、それから今食べているラーメンにしても、味に匂いに熱さの感覚はいつも通りに感じてる。なんとも都合の良い身体。


 空いてる左手を意味もなくぐーぱーぐーぱーと握り込んでみても、爪が掌に当たる感覚はあるけど、それ以上食い込むこともなく。その割に力はあるみたいなんだけど。ほんと、よく分からない身体。


 ボクはこの身体と力でこれからいったいどういう生活を営んだら良いんだろう。それに学校とか行かなくていいのかな。行くにしたって、どこに? っていう感じだけど。

 よくよく考えてみたら割と前途多難な感じがしてきた。

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