第16話 おうちを守らなきゃ


 ボクは寝室の窓から外を窺う。

 窓から見える範囲に生成神さんの姿は見えない。声も最初の一声以外は聞こえなかったから、彼女がどこにいるのか見当が付かなかった。


 応対しようかどうしようか迷っていたら、再び彼女の声が聞こえてきた。


「ユウキ! アナタが出てこないのならその家ごと吹っ飛ばすわよ? 今から十数える間に出てきなさいよ? いーち!」


 パパとママとゆうきちゃんの大事なこの家を吹っ飛ばされては困る。

 ボクはめちゃくちゃ焦って、寝室の窓を開けてベランダに履き物も履かずに転がり出た。


「あー、いたいた♥ そうやって最初っから素直に出てきたらいいのに」


 彼女の声は上の方から聞こえてきた。

 ボクが声の出所を見上げると、ハンマーを持って浮いている生成神さんの姿が見えた。生成神さんの衣装は昨日の制服と違って、白を基調にしたレオタードみたいな服にブーツ。そして胸の辺りにはトゲのようなものが取り巻いていた。


 ボクはしっかりと両足を踏みしめて立ち上がって、そしてできるだけ落ち着いた声で彼女に問いただした。焦りと恐怖がバレないように。


「生成神さん! こんなところまで何しに来たんですか?」


「何って、それはアナタを輪廻の輪に還すために来たに決まってるでしょ?」


 さも当然、とばかりによどみなく答える生成神さん。

 ボクはさらに問いかける。


「輪廻の輪に還すって、どういう事ですか?」


「そんな事も忘れてるなんて、やれやれアナタには一から教え直さないとダメなのかしらね。

 でも教え直したところであんまり意味もないかしら。どうせアナタはここで死ぬのだし」


 不敵な笑みを浮かべてそう言い放つと、生成神さんがハンマーを構えて突っ込んでくる。ボクはそれを受けるべく前に飛び出す。


(鎌よ、来て!)


 飛び出すと同時に鎌にお願いする。同時にボクの右手の中にフルサイズに戻った破壊神の鎌が握られる。ボクは鎌を飛び出した方向に構えて、ハンマーを受ける体勢を取った。


(衝撃から家を守って!)


 ボクがさらにお願いを重ねた瞬間、ハンマーが鎌と衝突する。


 鎌はハンマーの衝撃を完全に跳ね返した。

 また衝撃波で周りの壊れる音が聞こえる。ボクはハッとして自分の真後ろにある家を見たけど、家は傷一つなく元のままそこに建っていた。


「よそ見はダメよ! ユウキ!」


 生成神さんの二撃目がボクの左脇から入った。


 ものすごい衝撃に襲われたと思ったら、瞬間横に飛んだ感覚がして、すぐ頭から何かに突っ込んだ。不思議と気を失うなんて事はなかったけど、視界はがれきで埋まった。


「まだまだよ! ユウキ。まだ生きてるのは分かってるんだから、死んだふりなんてしないでよね」


 がれきの外から生成神さんの声がする。少し策を練らないと、このままのこのこ出て行っても戦い慣れがない分ボクが不利なのは明白だった。

 幸い彼女はボクの正確な位置は分からないみたいで様子を窺っているだけのようで。


 基本的には逃げるか、打って出るか。


 例の色のない世界だから、壊れても元に戻るのだとは思うけど、それでもおうちが壊されてしまうのは精神的ショックが大きいと思う。彼女の狙いはボクだけで、他の物には興味がなさそうでもあって。だったら、一旦おうちから離れた方が楽に戦うことはできそうに思える。


 この鎌の力もまだ全然分からない。


 彼女はボクのことを破壊神、この世界に生きるもの全てを輪廻の輪に戻す者と言っていた。たぶんその力はこの鎌が秘めているに違いないのだけど、お願いしたらこのがれきを消し去ることもできたりするのかな?


 でも、それをしちゃうと消した物は二度と戻ってこないような気もするし。


 あとはボクと彼女の力にどれほどの差があるのか。

 ボクと彼女は対になるモノと彼女は言っていた。対ということは基本的に力は互角だという事を示してる気がする。そこら辺は実際に当たってみないと分からないけど、今の一撃、なんの防御もなく直撃した割にはボクにはダメージが入っていない。衝撃こそ凄かったけど、ケガはしていないし意識もはっきりしてる。当然痛くもないし、すぐにでも動き回れそうだ。


 そんな事を考えていたら、なんだか少しずつ自信が湧いてきた。無敵モードだったら恐くない!

 そしてまた彼女の声が聞こえてきた。


「いつまで隠れてるのよ! いい加減出てこないとこの辺りの建物ごと吹っ飛ばすわよ!?」


 ヤバい。さすがにちょっと時間を使い過ぎちゃったみたいだ。

 でも今の声で彼女の大体の居場所が掴めた。今彼女はボクの右手側前方で少し足元の方の角度にいる。距離は分からないけど、ボクがこのまま頭の方に突き抜けて脱出すれば、距離は取れそうだった。


 ボクは意識を頭の上の方に持って行って、飛んだ。

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